山川穂高内野手(32)は自身の不祥事による処分期間中のFA移籍、という異例の決着を迎えることになった。山川の何に、多くの批判が集まったのか。現場の空気をかぎ取ってきた西武担当記者が、この1年を振り返る。

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週刊誌報道の直後の5月半ば、SNS上で1本の動画が目に入った。夜間に西武の本拠地・ベルーナドーム周辺で山川の掲示物が撤去される様子だった。

不祥事後の悪影響を考えれば球団としてありえる措置だ。業者は潤う。ただ間違いなく、本来なら“やる必要のない仕事”を強いられた現場の人がいる。

いくつもの掲示物が入れ替わった。何人もの人がきっと私用を削られた。球団職員はスポンサーに謝罪した。自分は悪くないのに、相手先の怒りは担当者として逃げずに受け止めねばならない。仕事なんだと理解はする。ただ、誰だってそんな仕事はしたくない。眠れぬ夜を送った人もいる。

10月の報道対応時には「ご迷惑をおかけしました」と謝罪し、FA宣言時は「申し訳ありませんでした」と文書で発信した。撤去作業や謝罪行脚の事実だけが迷惑なわけじゃない。そこに携わった人の苦しさや悔しさ、周囲への影響も含めての迷惑で、世間はそれを「振り回された」ともいう。

今年1月に西武担当に着任した。山川の第一印象は「大将」。努力に基づく理論や実績は確固たるもので、発信力も強い。後輩たちが寄る。報道陣が寄る。いつも周りに誰かがいた。それだけ居心地のいい世界を作れていたのだろう。輪の中心にいる人物を表だって注意する人はなかなかいない。そんな存在ゆえ、年長者からは触りにくさもある。

加えて、昨年時点で本人の意図せぬ部分で漏れてしまった、FA宣言への興味。球団内の複数の証言によると、不祥事の有無にかかわらず、“山川抜き”の戦いを想定する選択肢もあったようだ。

FA行使は申請期限ギリギリの夕刻で、そこから1カ月たっても西武球団には連絡がないままソフトバンク入りの報道が走った。全てが山川1人の決断ではないにせよ、かかわる人々がまた、振り回される。

物事は風化する。春になれば期待一色、きっとまた居心地の良い世界になる。釈然としないまま取り残されるのは西武ファンのみ。2024年。「ホークス山川」を、どう迎えればいいのか-。その日が近づけば、自身の倫理観と闘いながら自問自答するファンもいるだろう。去ってからも振り回される。【金子真仁】