右こぶしを振り、思い切り吠(ほ)えた。

阪神才木浩人投手(25)は、最大のヤマ場で最高の1球を投げきった。7回2死一、三塁。リードはわずか1点。好調の元阪神山本を追い込むと、気持ちを乗せた149キロで空振り三振を奪った。7回1失点で投手戦を制し、三度目の正直で今季初白星。打線が不調でなかなか勝てない阪神に、5試合ぶりの勝利をもたらした。

「先頭の中田さんに二塁打を打たれてから気持ちが入った。久々のピンチで、ここでなんとか、と。点が入ったあとだったので気持ちで負けないように投げました」。山本には2回に先制適時打を許していた。7回のピンチは2死二塁から佐藤輝の悪送球で広がったもの。直前にはようやく勝ち越しの1点をつかんだいた。仲間のミスを消し、チームの危機も救う、迫力満点のマウンドだった。

負けるわけにいかなかった。投げ合う相手は梅津だ。同じく右肘のトミー・ジョン手術から復活を果たした。「めちゃくちゃいい投手。点が入りづらい展開になると思っていた。梅津さんもすごい投球をしていたので、自分も負けずに、気持ちで押していけるようにと投げました」。バンテリンドームは約2年前、自身が手術から1159日ぶりの復帰星をつかんだ場所だ。当時、うれし涙を流したが、それももう過去のこと。今は「特に思い入れはないです。普通に投げやすい球場」ときっぱり。とっくに、新しい野球人生を力強く歩んでいる。

2人の投手戦は、後輩の希望になるはずだ。ドラフト1位下村がトミー・ジョン手術を受けたばかり。先輩たちがアドバイスを送る中、才木の活躍も下村の決断を後押しした。「ドラ1とか関係なく、もう早いうちにやった方がいい。絶対に」と大賛成した。

今は苦しくても、必ず笑える日が来る。「ここからいい雰囲気で甲子園に行ってくれたらいいかなと思います」。バンテリンドームの虎党に、才木は満面の笑みで手を振った。【柏原誠】

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