<広島9-7巨人>◇27日◇マツダスタジアム

 誰も捕れない劇的アーチだった。超美技を呼んだフマキラー社の広告フェンスのはるか上、右中間に着弾。5日前、本塁打を捕った張本人の天谷宗一郎外野手(26)も冗談を飛ばす。「ギリギリじゃないでしょ。結構、飛んだでしょう。ベープ効果ですね!」。1点を追う延長11回2死一、二塁。凡退すれば敗戦の打席で巨人野間口の高め速球を完ぺきにたたき、逆転3ランだ。土壇場で、プロ初のサヨナラ本塁打を放ってみせた。

 最高のフィナーレまでのシナリオは、7時間前に整っていた。この日の試合前練習後、フマキラー社から殺虫用品の「虫よけバリア

 ハイブリッド」など5品目をそれぞれ100個贈呈された。22日横浜戦(マツダ)で本塁打性の打球をスーパーキャッチした際、よじ登ったフェンス直下に広告を出す同社からのお礼だった。

 クラ、クラ、クラリ…。巨人だけではない。まるで蚊になった状態に陥ったのは野村監督だ。11回表には2点を勝ち越されていた。そこから岩本と天谷の2アーチで今季7度目のサヨナラ勝ち。負けを覚悟した戦況での劇勝に声も上ずる。「(天谷は)今年一番の当たりだったんじゃないか。こういう野球もあるんだ…。初めて経験しました。興奮してクラッとなったくらいだよ」。本拠地をエクスタシーが包んだ。

 「打てなかったらしょうがない、くらいの気持ちでした。プロに入って一番いい感触のホームランでした」。首位争いを繰り広げる巨人を一丸となって倒し、チームも連勝。もっともクラリとしたのは天谷だった。【酒井俊作】

 [2010年8月28日11時20分

 紙面から]ソーシャルブックマーク