<阪神1-3巨人>◇10日◇甲子園

 リーグ3連覇へ最大のピースが帰ってきた。巨人菅野智之投手(24)が、右手中指の腱(けん)炎症からの復帰初戦を白星で飾った。8月1日広島戦以来の先発マウンドで、7回を7安打1失点。味方打線が逆転したため、プロ入りから2年連続2桁勝利を達成した。9勝を挙げる大竹が離脱する中、杉内と共に先発陣の両輪を担う男が、力強く復活し、リーグ優勝へラストスパートに入った。

 菅野は、マウンド上で覚悟を決めた。「力勝負でいく」。1点ビハインドの6回2死三塁、2ー2から伊藤隼へ投じたのは147キロの速球だった。どん詰まりの飛球を、三塁村田がキャッチ。右手でグラブをバシッとたたき、最大のピンチを乗り越えた。「0点に抑えるか、抑えないか、試合の流れが全然違ってくる」。こん身の真っすぐで流れを変えた。

 1回裏、内野のボール回し中だった。スコアボードをジッと見つめた。わずか数秒、心を静める中で、頭をよぎったのは、支えてくれた人の顔だった。「ファームでお世話になったコーチ、トレーナーの方への思い…。自分なりに今日にかける思いがあった」。抹消後、調整登板は2軍での2イニング、46球のみ。多少の不安もあったが、苦しかった日々を思えば幸せだった。

 8月4日に初めて登録を抹消された。「携帯を持つのも痛かった」と語る腱の炎症で、中指は腫れ上がった。医者からは「無理をすれば、来年もどうなるかわからない」と言われた。チームは直後のDeNA戦で3連敗。「こんな時に、何もできない自分が悔しいです」。当初はテレビを見ることもつらかったが、試合開始の午後6時、氷で指を冷やしながら、テレビの前で3~4時間過ごすのが日課に変わった。

 やれることは、1つしかなかった。通常午前5時半、早い時には4時半に起床。7時前には球場に入って、トレーニング。「僕がいただいているお金は、試合で投げての評価。それができずにいる今、自分ができることはトレーニングしかない」。リハビリ中に襲われた突発性の腰痛に「もう、今年は終わったと思った」と一時は落ち込んだが、それをも復活への糧とした。

 苦難の日々を思い起こさせるように、4回2死満塁など、ピンチが訪れたが要所で粘った。2軍での調整中、こう言ったことがある。「夜、寝る時に思ったことがあるんです。起きたら治ってるんじゃないかって」。本音だった。そして、自身に言い聞かせるように「必ず成長して、戻れるように頑張ります」と締めた。言葉を体現した104球だった。

 6回終了時、川口投手コーチに意思を問われた。「いきます」。志願の続投だった。「マウンドに立ち続けることの難しさ、投げられる喜びを感じた」。だから、即答した。2年連続2ケタ勝利を達成しても「最低ラインです」と言った。「まだまだ戦いは残っていますし、やり残したことがある」。7回7安打1失点での10勝目。菅野が目指す歓喜の時は、もっと先にある。【久保賢吾】

 ▼2年目の菅野が今季10勝目を挙げ、昨年の13勝に続いて2ケタ勝利を記録した。新人から2年連続2ケタ勝利は則本(楽天)が今季記録しているが、巨人では11、12年沢村以来、9人目。沢村は1年目11勝11敗、2年目10勝10敗と、連続2ケタ勝利も貯金が0。菅野は昨年貯金7で今年も現在貯金5。プロ入り2年連続で貯金5以上の2ケタ勝利を記録すれば99、00年松坂(西武)と岩瀬(中日)以来となり、巨人でも66、67年堀内まで過去4人しかいない。