侍ジャパンの激闘を支え続けた男がいる。用具担当として、2月の宮崎強化合宿から米フロリダ州マイアミの決勝ラウンドまでチームに同行した小中亮太さん(27)。クラブハウスの環境作り、用具メーカーとの調整、選手の野球用具の搬送、管理まで裏方として尽力した。米国との決勝はローンデポパークのスタンドから見届け、「一生の財産になりました」と感慨深げに振り返る。

投手陣のWBC使用球への適応に、一役買ったかもしれない出来事がある。宮崎強化合宿の序盤。ダルビッシュに言われたことが新たな発見につながった。

「ボール、どうやって揉んでますか?」

用具担当は、練習前に新品のボールの滑りや光沢を落とすため“揉(も)み泥”を行う。大リーグと同様、「ブラックバーン・ラビング・マッド」という専用の泥を水で溶かしてボールに揉み込む。1日2~3ダース。ライブBPなど実戦形式の練習が行われる場合には5~6ダース。1球1球丁寧に準備するのだが、ダルビッシュいわく「揉み込む泥の量が少ない」ということだった。

合宿初日、ダルビッシュが米国から持ち込んだボールを使用した投手陣は「投げやすい」と口をそろえた。感触を“本場”のものに近づけるため試行錯誤の日々。選手から毎日意見をもらい泥の量を調整した。世界一奪還のため、地道な作業を繰り返した。

「泥を揉んだ後はボールの革が締まって、縫い目も高く感じる部分はあると思います。でも、風ですぐにボールは乾燥する。本当に適応が難しいボールだと思います」と小中さん。選手たちのストレスが限りなく少なくなるよう、動くのみだった。

同行した期間中、さまざまな選手の工夫を発見してきた。ヌートバーにはストレッチの際にラクロスのボールを使うと伝えられ、すぐに手配。岡本からは「何本もバット発注してすいません。いつもありがとうございます」と律義に言われた。要望に応え、活躍につながることが何よりの喜びだった。侍の魂を持った裏方なしに、マイアミの歓喜は語れない。【中野椋】