Jリーガー引退と同時に格闘家へ転身。僕のキャリアはいくつ目なんだろうか。コーチ、通訳、イベント運営、発達障害を抱える子どもたちのサッカースクール、選手マネジメント、学校講師、スポーツディレクター、Jリーガー、格闘家、講演家。11個の職種を経験し、サラリーマンも個人事業主も体験してきた。

人に雇われるのが全く自分には合ってないと感じたのは、毎月同じ給料が、自分の体調関係なくしっかりと入ってくることだった。すごく調子がいい日も、めちゃくちゃ調子が悪い日も、決まった日程に決まった額が振り込まれる。こんな毎日に違和感を感じ始めたのが全ての始まりの気がする。

僕にとってはアスリートの「セカンドキャリア」問題は全くもって意味がわからない。とはいえ、身近にアスリートの友人が数多くいて、「セカンドキャリア」に迷いや不安を抱えている人がいる。決してひとごとではない。ここでは僕が「セカンドキャリア」問題についてどんな考えを持っているか書きたいと思う。

この問題の根っこは、そもそもの部分にある。それは僕の思うアスリートは「社会不適合者」であり、一般的ではない、ということ。それなのにもかかわらず、「セカンドキャリア」ともなるとなぜか一般論で考え始める。

例えばサッカー選手であれば、間違いなく多くの選手は幼少期からサッカーしかしてきていないのは明らかであろう。他のことに目を向けることなく一心不乱にサッカーとだけ向き合ってきたことを想像するのはたやすい。そんな選手が引退するからといって急に一般職を考え始める。もうこの時点で大きな間違えが生じている。

他の人にはできないことをやり切っているからこそアスリートになれたわけで、なぜその強みを生かさず一般的王道へと進んでいくのだろうか。その道は決して簡単ではない。サラリーマンをなめるな! である。

小さい頃から好きなことにハマって没頭して、門限を破ってでもボールを蹴りたかった少年が若くして夢をかなえたんだ。20代前半でかなえた夢からさめたくないからずっと幻想を追い続ける。やめ時も失い、カテゴリーは下がるばかり。でもお金を稼げるのは強みであるサッカーのみ。

少年の頃はお金をかけてでもサッカーをしたいくらい最高の趣味だったのに、夢をかなえた瞬間、「これはいくらもらえるの?」の思考が止まらない。お金がプロ選手の価値だという人がいるけど、それは他者評価であり、自分が大事にしてきた「好き」と言う気持ちの価値とは全く違う。

僕は今、LIFETIMEプロジェクトという社員研修セミナーを企業と組んで取り組んでいる。それをやればやるほど、どれだけ自分と向き合えていないかを感じ取ることができる。誰かが正解を持っていて、早く正確に答えることで得た点数は、成績と受験に使われるだけ。そんな正解がある時代を生き抜いてきた人たちは、誰かが正解を持っているという洗脳がずっと解けない。自分の中にある正解に触れようともしない。

時代は変わり、自分の中の正解がこれから生きる道でとても重要になってくる。判断基準は先生やコーチや親。これでは今からの時代を生き抜くことはできない。しかし、ずっと他者の考える正解を早く正確に答えることをやってきた人にとっては、自分の中の正解を導き出すことができない。LIFETIMEプロジェクトはそんな人に最適なプロジェクトだ。僕自身もこのプロジェクトに出会い、学び、実践してきた。今はそれを形態化して企業に届けている。

「セカンドキャリア」問題はもはやアスリートだけの問題ではない。僕は現在格闘家として活動しているが、僕にとっての格闘技はあくまでも僕の伝えたいことを表現する手段だ。それはJリーガーの時も同じ。仕事は手段。仕事は表現。仕事は生き様。その先にお金が生まれるだけで、お金を求めて何かを始めれば、ずっとお金に縛られる人生が待っている。

そうなれば、すべての判断基準は「お金」となり、そこに手段も表現も生き様も皆無になる。アスリートにはそれは一番きつい。サッカーに打ち込むためにたくさんのお金をかけてきたはずだ。Jリーガーになる時はもらえるお金が少なくても喜んでサインしたはずだ。それが気がつけばお金が自分の価値だと勘違いして、ずっとお金に縛られている。その状態から一般道へ入り込んでも事故を起こすだけだ。

高速道路を爆走していた人に渋滞だらけの一般道は本当にきつい。LIFETIMEプロジェクトはそんな自分をしっかり見つけてくれる。自分と向き合うことがどれだけ大事で、その中にしか答えはない。

今日、明日で答えの出るプロジェクトではないが、どこかでシナプスがつながる瞬間がある。インサイドアウト、本当に自分がやりたいことは内側から湧いてくる。どれだけご褒美を与えられてもそれは他者依存でしかない。もちろん全ての人がインサイドアウトできるかなんてわからないが、自分の人生を他人に任せることに僕は嫌悪感がある。 大事なのは自分の中にある本当の自分に気がついて、うそや欲で固めれた自分をぶっ壊し、先入観や固定観念で凝り固まった思考を揉みほぐす必要がある。これがブレインストレッチという手法であり、その手法を用いて、自分探究の旅に出る。持ち物は好奇心。まだ見たことない自分に出会えることにワクワクして、LIFETIMEプロジェクトからそのヒントをもらうんだ。

僕は、自分のキャリア形成にワクワクしている。やったことのない、見たことのない景色は、僕は知らない世界にある。そのためには他者に流されず、自分の中の答えを探すことで、答え合わせをしながら生きていくみたいなもの。お金や他者評価に身を委ねず、自分自身の人生を信じることでしか幸せは訪れないと思っている。僕はこれからも格闘家として表現をしながらLIFETIMEプロジェクトを通して本当の自分に気がつくヒントを伝え、1回しかない人生を思いっきり楽しんでいきたいと思っている。

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。21年4月にアマチュア格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー。プロとしては22年2月16日にRISEでデビューを果たした。プロ格闘家としては通算2勝1分け1敗。175センチ

安彦考真(右)
安彦考真(右)