何人ものスポーツ選手を取材してきた。時には「何じゃこいつ」と感じる相手もいたけど、それ以上に感じのええ相手が多かったのは間違いない。その中でも、前WBO世界ミニマム級王者福原辰弥(28=本田フィットネス)は特上の1人です。

 8月27日、熊本・芦北町民総合センター。タイトルマッチが終わって約1時間半。原稿を書いてる合間、屋外の喫煙所で1人で一服してたら、挑戦者の山中竜也に負けた彼が歩いてきた。横にいたんはきっと彼女でしょう。近づいてきて、目が合った。

 「ありがとうございました!」

 力みもなく、普通にしっかりした声。顔はちょっと腫れていたけど、自然な笑みが印象的やった。

 「ナイスファイトやったね?」

 おべんちゃらでなく、実際そう思ってた。打たれたら、必ず前に出て打ち返す。1度も下がらんかった。典型的なファイターの戦い方を見せてもらった。

 こっちの言葉にちゃんと目を見て、頭を下げて、通り過ぎていった。横にいた彼女(と思う)も、彼と一緒に笑顔で頭を下げていった。

 別に特別親しい間柄やない。世界王者になる前から取材してたわけやなく、初めて会ったのは3日前。彼にすれば“いちげんさん”ですわ。しかし、思えばその3日前も、質問に必ず相手の目を見て、質問の意味をじっくり考えてから、自分の言葉で対応してた。

 週に5、6日は朝9時半から夕方6時までは熊本市内のゲームセンターで店員として働き、週に3日は夜9時から深夜2時、3時まで通信販売のコールセンターで働く。そうやってボクシングを続けて、世界王者になった。

 9月9日に熊本でミスチルのライブを見に行くと言うてた。

 「それは君の趣味?」

 「…いや~」

 「ああ、彼女の趣味やね?」

 「…ははは」

 今後も現役を続けるんか。28歳っていう年齢を思えば、きっといろいろ考えると思う。穏やかな時間の中で、じっくり考えるんでしょう。まあでも、彼なら彼にとって正しい結論を出すのは間違いないと、信じています。【加藤裕一】