トラブル。苦しめられる一方で、新たな気づきを与えられ、人の成長を助長するケースもある。ボクシング興行で名古屋初開催となった「3150FIGHT vol.8」で亀田興毅ファウンダー(37)が直面したのがまさにそうだった。

3月31日に重岡兄弟のダブル世界戦を含め、名古屋国際会議場で開催された。当初の開催プランは「負けたら引退」を掲げた元世界2階級制覇王者亀田和毅(TMK)とレラト・ドラミニ(南アフリカ)の再戦がメインで、同興行初のabema tvでの有料配信だった。しかし、ドラミニがIBFからの指名試合を優先する形でドタキャン。約2週間前に対戦相手を変更、配信も無料に切り替えた。

さらに英プロモート大手マッチルーム社と共催予定だったミドル級トーナメントが中止。とどめにIBF世界ミニマム級世界王者・重岡銀次朗の挑戦者が原因不明の体調不良で来日不可となった。不運続きにネットでも「大丈夫か」など心配する声が相次いだ。

最悪、興行中止の危機に追い詰められた興毅氏は、開催に向けて奔走した。関係者によると「あんなに落ち込んだ興毅さんを見るのは初めて」。その興行は代役を確保し着地した。リング上であいさつに立った興毅氏は、苦難を思い返したのか、途中で声を詰まらせる場面もあった。

「ほんまにしんどかった。今後もプロモート業をやっていく上で、めちゃくちゃええ経験になったのも確か。もうええけどな」

この間、表に出ていない“トラブル”もあった。プロモートする力石政法をサポートする移動中に起きた。日本からアブダビ経由でローマへの旅程。アブダビから乗り換えた機中で体調不良を訴える乗客がおり、イスタンブールに緊急着陸。ローマへの到着が3時間以上遅れたという。

ただ、その時に興毅氏は感じた。「“おばあ”がスーッと消えていく感じがしたんよ」。亀田家では昔から、不運が続くことを「おばあが憑いとる」と表現してきた。いわゆる迷信だが、興毅氏は重かった両肩から何かが去っていく感覚を味わったという。

ローマでは力石が大劣勢から最終12回に大逆転TKO勝ちした。そして、名古屋の興行も事故なく、無事に開催を終えた。「ほんまにいろいろあるわ。でも、やらなあかん、必要な経験やと思てるよ」。

「日本のボクシング界を変えたい」と“既存”に立ち向かう。逆風に耐えながら、興毅氏は大きな経験値を加算した。【実藤健一】