トークショーで歓声に手を振って応える大相撲の北勝富士(2019年3月1日撮影)
トークショーで歓声に手を振って応える大相撲の北勝富士(2019年3月1日撮影)

無口が美徳とされる角界だから、相撲中継のインタビューなどは正直おもしろくない。だが、普段の会話は別で、いろんな意味でトークがさえる力士はいる。

白鵬、鶴竜の両横綱は、さすがだ。白鵬の探求心は半端じゃない。初場所の朝稽古取材ではチベット仏教の「チャクラ」などに話題が及んだ。「人類の起源に興味があるんだよね」と、話がどんどんオカルト=神秘主義に偏ったりする。42回も優勝しとったら、常識、既成概念では満足できんのかもしれん。

鶴竜は日本語が抜群にうまい。発音、滑舌、リズム、豊富な語彙(ごい)。話題もサッカー、NBA、NFL、UFC…ととどまるところがなく「何でそんなに知ってんの?」と驚く。「日本人以上に日本語のうまい力士」と思う。

時の人の貴景勝、平幕の阿炎らのオフレコトークは切れ味抜群(オフレコなんが痛いけど)やし、御嶽海は間の取り方が上手やし…。そうこう書いている内に思ったけど、相撲のうまい人は話もうまいかもしれませんな。

最近のイチオシは、北勝富士だ。基本的にしゃべり好きなんやろうが、話し出したら止まらん。その内容も感心させたり、笑いを誘ったりと多種多様なのだ。

新三役での春場所初日、白鵬戦でもあり、朝稽古を取材した。全体の稽古を終え、座敷でストレッチポールの上で背筋を伸ばしながら、いきなり切り出した。

「…う、う~ん…俺“劇団四季力士”でいこうと思うんですけど」

は?

「舞台なんか全然興味なかったんだけど、知り合いに“チケットあるから行かない?”って誘われて渋々行ったら…。やっぱり生ってすごいんですよ。もうめっちゃ感動しちゃって」

ライオンキングを2回見た。リトルマーメイド、アラジン、ノートルダムの鐘も見た。

「大阪でも場所前に行きたかったんですよ。でも、チケット取れなくて」

生のすごさに引かれて、ジャンルは全然違うが、吉本新喜劇も2度、見に行ったらしい。

…と、まあ、こんな感じで唐突にネタを切り出してくる。その話しぶり、リズム、内容がとにかく楽しくて、ついつい聞き入ってしまうのだ。

土俵外の話題だけでなく、北勝富士は土俵の話も楽しい。8敗で負け越しが決まった翌日の春場所12日目。錦木に勝った。鮮やかな踏み込み、押し込みで腰の重さに定評のある男を押し出した。

直後の支度部屋。また自分から切り出した。

「遅いんですよね~。いっつもそうなんだよな~俺。結局、気持ちが楽になったら、こういう相撲が取れる。おこちゃまッス。今朝は5時半から6時の間に腹痛くなって、起きなかったもん。初日から毎日起きてたのに」

確かに取材が楽、というのもある。ほとんど勝手に話して、ネタを提供してくれるのだから。だが、しかし、こういうお相撲さんが強くなると、楽しい。新たなキャラクターやないですか。横綱、大関との上位戦や、話題の力士の印象を語るとか。土俵の話題が増えるでしょ?

だから、もっと頑張れ北勝富士です。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

春場所12日目に錦木(左)を押し出しで下す北勝富士(2019年3月21日撮影)
春場所12日目に錦木(左)を押し出しで下す北勝富士(2019年3月21日撮影)