ボクシングのWBA世界ミドル級王座決定戦は今日20日に有明コロシアムでゴングが鳴る。ロンドン五輪金メダリスト村田諒太(31=帝拳)は19日に都内で前日計量に臨み、元世界王者アッサン・エンダム(33=フランス)とともにパス。決戦の舞台が整った。五輪ミドル級金メダリストで、プロの同級で世界王者になった者はいない。国内最大級のビッグマッチを制し、113年分の扉を開く。興行はトリプル世界戦となる。

 活気に満ちた目だった。「こんなんで大丈夫ですか。何かあったら言ってください」。はつらつとした口調で報道陣の質問を探る。ないとみるや、「ありがとうございました! 明日もよろしくお願いします!」。

 世界戦決定後、数多くの取材で口を開いた。その最後。計量を終え、スッポンスープなどを腹に収めての会見でも、サービス精神旺盛に声は弾む。「ヒゲですか? このままで。ちょっとでも守ってくれる気がしませんか(笑い)。奈良のおばあちゃんに怒られるんです。『なんであんな汚い顔ででてるの』と」。しっかり笑いを取って幕引く姿は、まさに自然体だった。

 はかりに乗って「最低限越さないといけない壁」の計量をパス。エンダムと同じリミットを200グラム下回る72・3キロで、互いに肉体を誇示した。向き合い、15秒。エンダムが顔をそらしたが「メンチの切り合いしていたわけじゃない」と笑顔でかわした。

 泰然自若。その様子に世界的偉業の予感が漂う。1904年セントルイス五輪からボクシングが採用されて以降、延べ25人のミドル級金メダリストが誕生したが、プロの同級で世界王者はいない。この事実を聞いた村田は「えーーっ」と驚き、うなずいた。日本では五輪金メダリスト(階級問わず)で世界王者も初だが、世界規模でも快挙となる。

 「最終的にはどつき合いですよ。ジャブが当たるか、とかではなく。シンプルにいきます」。そう話したのは今月10日。「黄金の拳」を持つ男の最大長所は、この気持ち。リングでは恐れを知らず、相手を殴り、倒す。それを迷いなく実行できる精神面にある。

 この日、こうも言った。「僕は結構びびりで、試合になったら『はい、いこ!』と開き直るタイプなのに、いまからこんなに落ち着いていていいのかな」。ずっと前に「気持ち」はできていた。おどける姿は、数段上の「世界戦仕様」を感じさせた。113年分の重み。ボクシング史に名を刻む瞬間は、いま目の前にある。【阿部健吾】

 ◆五輪ミドル級金メダリストのプロ成績 ミドル級王者はいない。52年ヘルシンキ大会のパターソンがヘビー級王者になったように、他階級に変更しての戴冠はある。52年大会以降はミドル級が75キロに設定され、プロではスーパーミドル級(76・2キロ)に近いこと、50年代以降に共産圏のボクサーがプロ転向していないことも理由だが、歴代25人で1人もいない。