西前頭10枚目で再入幕の松鳳山(31=二所ノ関)が1敗を守った。東前頭10枚目の蒼国来を上手出し投げで退けた。中日8日目を1敗で折り返すのは自身初。夜明け前から始動する、ただ1人の関取が、地元福岡で場所を盛り上げている。

 日が沈むまで、あと46分だった。午後4時半。松鳳山は蒼国来と相対した。これまでと一転した突き押し。左腕をたぐられかけたが、瞬時に抜いて右上手出し投げを見舞う。地元の大声援が降りかかった。「すごかった。ありがたい」。1敗を守り、大勢からサインや写真を求められた。あい夫人運転の車が走りだしたとき、ちょうど日没。起床から12時間がたとうとしていた。

 夜明け前。関取衆の誰もが寝ている午前5時半に、場所中は目覚め、6時に土俵へ下りる。福岡の15日の日の出は6時49分。関取になった10年夏場所、師匠の二所ノ関親方(元大関若嶋津)に「関取なんだから、7時ごろでいいぞ」と言われた。翌名古屋で、言葉に甘えると「何時に来てんだ!」と怒られた。以来「稽古が始まる6時前には土俵にいよう」と貫く習慣。ただ、夜の付き合いもある。昔は「しんどかった」。

 今年の春場所で初日から13連敗し、3年半ぶりに十両へ落ちた。さらに「幕内で取っていたんだ。余裕で突き出せる」という甘い心が、十両での2場所連続の負け越しにつながった。

 その甘えに気づいたのが秋場所前。飲食店を営む知人の「命懸けでやっている」という覚悟を聞いたときだった。「良い相撲なら負けてもいいと思っていた。でも、土俵の上で負けてもいいと思うこと自体、間違っていますよね。自分は、覚悟が足りなかった」。

 「何が何でも絶対に勝つ」と覚悟を決めたとき、行動も変わった。「5時29分に、目覚ましが鳴る前に起きれるんです」。秋場所、十両優勝で幕内に戻った。陥落後の十両で費やした3場所は、回り道ではない。「それが最短だった」。

 幕内で、自身最高の成績で折り返す。「こういうチャンスをモノにしないと、上には行けない」と、思いを隠さない。初場所以来5場所ぶりの幕内勝ち越しは目前。「夜明け」は、すぐそこにある。【今村健人】

 ◆松鳳山裕也(しょうほうざん・ゆうや)本名・松谷裕也。1984年(昭59)2月9日、福岡県築上町出身。前頭10枚目。身長177センチ、体重137キロ。