初優勝が目前に迫った。だが、大関琴奨菊(31=佐渡ケ嶽)は平常心を強調した。「明日の自分の一番に集中して、やるべきことをやって、結果は後からでいい」。まゆ一つ動かさず、車に乗り込んだ。

 前日に豊ノ島(32=時津風)に敗れて、初めて土がついて迎えた関脇栃煌山(28=春日野)戦。気迫が違った。呼吸が合わずに2度目となった立ち合い、左を張って右を抱えると、一気に前に出た。相手に何もさせない圧巻の寄り切り。「決めたことだけやろうと思った。昨日から成長できたことは、すごく冷静に相手の長所と短所を研究できたこと。やるべきことをやろうと思いました。しっかり体も反応してくれて、やりきったから勝ったね」。笑顔はない。だが、言葉の中には充実感がにじみ出た。

 このときはまだ、白鵬は敗れていなかった。だが、結びの一番で波乱が起き、再び単独トップに立った。その結果は、観客の歓声で分かった。千秋楽で大関豪栄道に勝てば、自力で初優勝が決まる。06年初場所の栃東以来となる日本出身力士の優勝も、実現する。

 「まだ、あと1番ある。どうなるか分からない」

 最後まで平常心を貫いたとき、その手に賜杯を、初めて抱く。