物言いがつけば、見ている方は盛り上がる。だが、相撲を取っている方、特に自分に軍配が上がっている力士の心境としたら…。

 今年の幕内でついた物言いは49度。その中で、結果的に最も負けたのは大関豪栄道(30=境川)の4敗だった。しかも、受けた4度の物言いの全てが、最初の軍配は自分。しかし、3度が差し違えで、1度は取り直しの末に…。まさに「そりゃないで賞」だった。

 ただ、この大関は微妙な判定にも、愚痴めいたことを一切、言わない。「物言いがついたら基本、負けやと思う。負けたときは自分でだいたい分かるから。(文句を)言っても一緒。勝負判定は変わらない」。その姿勢はいつからかと聞かれると、笑って「生まれたときから」と付け加えた。

 秋場所で史上初のかど番全勝優勝をし、綱とりに挑んだ九州場所8日目の隠岐の海戦。これも物言いに泣いた。突き落とした際、左足は俵に乗っていたが、右足が「土俵の中になかった」と判断され、差し違えで敗れた。痛恨の2敗目で綱とりが絶望的となった。そのときも愚痴はなかった。

 「いい1年やったし、何もないですよ」。悔しさとして残るのはむしろ、4勝に終わった初場所。入幕後、皆勤した場所で「最低の成績だった」。その上で「苦い経験が多いから、その後の結果に結びついてると思う。(来年は)もう1回、優勝したい」。物言いの“苦さ”も次の糧にするのが、豪栄道。【今村健人】