3場所連続休場からの復活優勝を狙う横綱稀勢の里(31=田子ノ浦)が、新小結の阿武咲(21=阿武松)を突き落とし、今場所初白星を挙げた。途中休場した名古屋場所4日目の正代戦以来124日ぶりの白星で、節目の幕内700勝目となった。わずか0秒7で決着したが、春場所で左上腕付近を負傷してから影を潜めていた左からの攻めが決まり、復活が期待できる一番となった。

 伝家の宝刀が、ついに抜かれた。全休明けからの初日黒星の悪い流れを断ち切るのは、稀勢の里自身しかいなかった。押し相撲を武器に三役まで駆け上がってきた阿武咲よりも先に、左足から踏み込んだ。それだけでも十分にかかった圧力。その瞬間、相手の右脇下を強烈に左で突くと、たちまち阿武咲にべったりと両手を土俵の上につかせた。一瞬で決まった勝負。稀勢の里は、何事もなかったかのように涼しい顔で、観客からの拍手を受けた。

 春場所で左上腕付近を負傷して以来、全くと言っていいほどに左からの攻めが影を潜めていた。稽古場では決まっていても本場所に入ると決まらず、歯がゆい思いを3場所連続で味わった。今場所も初日の玉鷲戦では不発。またも駄目かもしれないと思われた直後に、生命線の“左”が帰ってきた。「まぁ良かったんじゃないですか。今日は今日でまた明日」と控えめながらも、自信を取り戻す一番になったのは間違いなかった。

 阿武咲は、期待する若手の1人だった。共に10代で関取になり、誕生日も1日違いの縁があることから、15年の春巡業で稀勢の里から声をかけて初めて稽古した。その後も、阿武松部屋に出稽古に行っては胸を合わせた。当時から「いずれ三役、それ以上にいける存在」と認め、この日も「非常に力のある力士だと思う。良い相手でした」と振り返った。

 名古屋場所以来の白星だが「また明日。しっかりやるだけです」と浮かれることはなく、幕内700勝にも冷静に「まだまだ伸ばせるようにしたい」と話した。武器と自信を取り戻した稀勢の里が、よくやくスタートラインに立った。【佐々木隆史】