元横綱日馬富士関の暴行事件で、日本相撲協会は28日の臨時理事会で、報告義務を怠るなどした貴乃花親方(元横綱)の理事解任を決議し、来年1月4日の臨時評議員会に諮ることになった。事態収束に向かいつつあるが、協会危機管理委員会の調査などからは、角界の根深い暴力体質がうかがえた。

 危機管理委が20日に公表した報告書では、10月下旬に鳥取市内のラウンジで元横綱が貴ノ岩関に暴行する場面が再現された。断続的に素手で殴打した時は誰も止めに入らず、カラオケのリモコンへ手を伸ばした瞬間、横綱白鵬関がようやく声を上げた。「物は持たないようにしましょう」

 受け止め方によっては、白鵬関は素手による暴力なら容認したことになる。50代の師匠が「相撲界では親方や兄弟子が力士を注意している時は、たとえ殴っていたとしても止めに入らないものだ」と話したほどだ。

 21日に行われた全協会員対象の研修会でも気になる発言があった。非公開の時間帯で八角理事長(元横綱北勝海)が「何げない気持ちでやった暴力が、組織を揺るがすようなはめになってしまう」と説いたことを、春日野広報部長(元関脇栃乃和歌)が後で明らかにした。動機を「何げない気持ち」と表現したことは、暴力が身近な存在であると捉えられかねない。

 スポーツ界では2013年に柔道界が同じく暴力問題に揺れた。不祥事の渦中で全日本柔道連盟に専務理事として招かれ、組織を再建した近石康宏副会長(元大阪府警本部長)は「いかなる理由があっても、暴力は人間の尊厳を傷つける行為だ。一番の悪だということを組織に属する全員の腹に落とし込む必要がある」と提言。角界の意識改革は始まったばかりだ。