大関とりに挑戦する関脇朝乃山(26=高砂)が、好発進した。関脇経験者のベテラン、隠岐の海を寄り切り。

昇進目安の12勝に向けて序盤の取りこぼしが許されない中、右四つ、左上手の絶対的な形で、史上初となる無観客開催の場所の初日を白星で終えた。白鵬、鶴竜の両横綱ら、関脇以上は安泰だった。

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今場所の主役候補が、静寂に包まれた土俵で持ち味を存分に発揮した。立ち合い踏み込んですぐに右を差した朝乃山は、左上手をがっちり引きつける。盤石な形だったが、20秒近くかけて焦らず体を寄せた。「体が自然と慎重になった。投げ、突き落としもあるので」。土俵際まで集中力を切らさなかった。

テレビを通して声援を送る大相撲ファンに思いをはせた。「頭の中でお客さんがいるイメージで、あの歓声を想像した。あとは気持ちで負けないようにした」。全力士が初めて経験する無観客開催。静かな幕内土俵入りは「さびしい」と、思わず声のトーンを落とした。「(観客に)しこ名を呼んでもらって、力士の皆さんはどこかで気合が入っていたと思う」。戸惑いは隠せないが、土俵に上がれば集中力を発揮。「目の前の一番だけに集中できた」と胸を張った。

大関昇進の目安は「三役で3場所33勝」。12勝を挙げれば、数字上で到達する。「あと14日間ある。大事な場所で、周りから『大関』と言われるけど、気負わずに自分らしく取りたい」。人生を左右する今場所。闘志は静かに燃やしている。【佐藤礼征】