あるか返り入幕V。西前頭15枚目の阿炎(27=錣山)が、大関貴景勝も撃破した。大関の圧力に負けず、力強く押し出して12勝1敗とした。14日目は結びで横綱照ノ富士との対戦が組まれ、全勝の横綱に勝てば一気に初優勝の可能性が広がる。逆に照ノ富士は阿炎に勝てば2場所連続の優勝が決まる。

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大関に対しても1歩も引かなかった。低い立ち合いから前に出てくる貴景勝を阿炎が突き起こす。下がることなく腕を伸ばし、足を進めて押し出した。「大関に胸を借りるつもりでいきました。自分の相撲がとれたと思います」と笑顔を見せることなく言った。

大関戦が決まっても、やることは同じだった。前日の取組後、対戦に備えて動画を見た。「いつも通り相手の研究をして臨みました。過去の自分との相撲、今場所の大関の相撲をじっくり見て。よかったと思います」。仮想・貴景勝のイメージ通り。ひるむことなく自分の相撲を取りきった。

日本相撲協会のガイドラインに違反しての出場停止処分から復帰しての快進撃。生まれ変わった要因に「感謝」を教えてくれた師匠・錣山親方(元関脇寺尾)の存在がある。「師匠がいなければここまでこれていない」。毎年、阿炎の5月の誕生日に祝儀をくれる。ただ、必ず「小言」が添えられる。昨年は「気を抜くな」。精神面の大事さを常に教えられてきた。不祥事による力士生命の危機があり、師匠の心を阿炎も真から理解して今がある。

14日目は結びで横綱照ノ富士戦が組まれた。負ければ横綱の優勝、勝てば、夢が広がる。優勝争いを「意識しません」と言い、「今から横綱のビデオを見て、自分の相撲がとれるよう準備します」。奔放な発言もあった、やんちゃな一面は過去に葬った。「相撲に向き合うと決めたので」。その結果、力士人生最大の大一番に挑む。【実藤健一】