「怪物」と呼ばれた男が電撃引退した。大相撲で幕内優勝1度、最高位関脇で西前頭13枚目の逸ノ城(30=湊)が4日、10年間の土俵人生に別れを告げた。

東京・両国国技館で師匠の湊親方(元前頭湊富士)とともに会見し、急の決断を発表。持病の腰痛が深刻化したことを理由とした。親方などで残らず日本協会を離れるが、今後の人生に関しては「まだ考えが決まらない」と明言できなかった。

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十両だったとはいえ、先場所14勝1敗から、わずか1カ月余りで引退-。急転直下だ。確かに逸ノ城は、随所で痛みを隠し切れないしぐさを見せていた。2月の花相撲後には、帰り際、柵越しに取材に応じたものの真っすぐ立っていられない。柵に手を掛け、しりを突き出して腰を伸ばしたり、かかとの上げ下げを繰り返したり。落ち着きない行動の連続は、全て腰の痛みに起因する。この日も「歩くのも、横になるのもかなりつらい」と、深刻な状態だと説明した。

14勝もした力士が、次の場所を前に全く相撲を取ることができない、と判断した。長い人生を考えれば、良い決断と思える日が来るかもしれない。ただ、無給となる幕下まで番付を落とすには、2、3場所の猶予があった。それだけに、腰痛が快方に向かうのを待つという選択肢もあったように思う。それでも逸ノ城は「もうちょっと、もうちょっとと頑張って、ここまできて、こういうことになった」と限界を感じていた。

湊親方夫人への暴力、その後の確執、さらにアルコール依存の疑いがあった。うち暴力については、日本相撲協会が「一部、事実関係を確認した」と昨年末に発表。5年以上前のこととあって、この時点での処分はなかったが、酒に酔って暴力を振るった過去が認定された。湊親方は、逸ノ城のアルコール依存体質継続を否定。ただし日刊スポーツの取材にこの日「自分の信念を貫くことは、力士を引退してからも大事。一番の敵は自分自身」と意味深長な回答。関係者によると、この1カ月、全く稽古場に姿を見せず、2日の力士会も無断で欠席していた。

日本国籍を取得していながら、親方として相撲協会に残ることは「考えていなかった」という。師匠も弟子の断髪式について「考えていない」と、日程はもちろん、根本的に実施するかも未定と説明。会見では随所にチグハグな回答が目立った。腰痛の悪化は間違いないだろう。ただ、現役生活を振り返って「やり切ったか?」の問いには「もう、しょうがないという感じ」と、投げやりぎみに語っていたのが印象的だった。

既に師弟で語り尽くしたのだろう。回復を待つ選択肢は、師弟ともになかったように見えた。ただ、会見では「もっとやりたかった」と本音も漏らしていた。先場所、力強い相撲を見せていただけに、何か方策はなかったのだろうか。部屋の行司は2日に逸ノ城が引退を決断し、涙を流したという。もったいなく思ったのは周囲も同じだったのかもしれない。【高田文太】