19世紀末のヨーロッパ宮廷で随一の美貌とうたわれたオーストリア皇妃エリザベ-トは、ロミー・シュナイダー主演の「プリンセス・シシー」(55年)など、多くの作品に愛らしい女性として登場している。

ハプスブルクの家系を1世紀さかのぼるマリー・アントワネットと並び、ミュージカルなどでおなじみの2大「人気プリンセス」と言えるだろう。

25日公開の「エリザベート 1878」は、40歳を越えた1年間にスポットを当て、これまでの作品では描かれなかった「生身の女性」としての彼女を浮き彫りにする。

気高さとつつましさの象徴であるコルセットに息苦しさを感じ、容貌の衰えに過敏になった彼女は無神経に「美」を褒めそやす高官たちに皮肉たっぷりに応じる。一方で、女盛りを持て余し、奔放な振る舞いはしだいに度を越していく。

これまでの作品とはひと味違った「素顔」の描写に楽屋裏をのぞくような楽しさがある。

主演のヴィッキー・クリープスとマリー・クロイツァー監督は7年前の「We Used Be Cool」でタッグを組んで以来気心の知れた仲だという。

監督の指示で減量したクリープズは、撮影直前になってそれがコルセット着用のためだったことを知る。「印象的な体験でした。スープやスムージーのような液体しか摂れなくなるだけでなく、ひもで締められると悲しい気持ちになるのです。横隔膜は人間の感情をつかさどる場所で、当時の女性たちに与えたであろう影響を実感することができました」と振り返る。

実寸大コルセットは、現代に生きるクリープスの感覚を当時に重ね合わせるための、あえての「苦行」だったようだ。監督は「エリザベートが苦しんだ世間からの美しさへの期待は、今日の女性にも課され続けていると思います。昔と今とで違うのは、かつては人々がそれを堂々と語っていたことくらいですから」と製作意図の中で明かしている。

生々しいエリザベート像は随所で「現代」をほうふつとさせ、時代を見まがうほどだ。枕を並べて眠りこけるほど仲のいい、いとこのルードヴィヒ2世(マヌエル・ルバイ)に気まぐれに抱きついて拒絶されるシーンは典型だ。

エリザーベートは「厩舎(きゅうしゃ)の青年たちのウワサは本当だったのね」と悔しそうに言う。彼がゲイであることに驚くより、自分の欲望が満たされないことを嘆く様子が今っぽい。

夫のフランツ・ヨーゼフ帝役のフロリアン・タイヒトマイスターや女官マリー役のカタリーナ・ローレンツは舞台経験の長い実力派で、この作品の時代背景の重みをしっかり支えている。クロイツァー監督の演出はフィクションを折り込みながら、時代の骨格を大きく踏み外さない堅実さを感じさせる。

とんがり具合ではソフィア・コッポラ監督の「マリー・アントワネット」(07年)に一歩譲るが、人間くささでより強い印象を残す作品だ。【相原斎】