世界中が注目する映画の祭典アカデミー賞の授賞式が現地時間24日にハリウッドのドルビー・シアターで開催され、司会者の降板やテレビ中継時間の短縮による一部部門のCM中発表の撤回などさまざまなトラブルや批判を浴びながらも大きな混乱もなく終了しました。

アカデミー賞授賞式といえば、司会者が授賞式中に宅配ピザを注文して会場にいるスターたちに振る舞うなど豪華な演出と社会風刺を交えたジョークが見どころでしたが、30年ぶりに司会者抜きの授賞式となった今年は、スターたちがプレゼンテーターとして登場して各部門の結果を発表する至ってシンプルな進行となりました。例年のように観客席にずらりと並ぶスターたちをいじる軽快なトークはなかったものの、歌曲賞にノミネートされた楽曲のパフォーマンスを挟みながら映画そのものにスポットライトを当てた映画の祭典にふさわしい内容となり、「過去最高の授賞式だった」との声もあがっています。

今年は多様化が顕著に表れた年でもありました。作品賞を受賞したのは60年代の米南部を舞台に黒人ピアニストと人種差別的な思考を持つ用心棒の交流を描いた「グリーンブック」。そしてドナルド・トランプ米大統領が政策に掲げる国境沿いの壁建設で揺れる移民問題を抱えるメキシコの映画「ROMA/ローマ」が、アルフォンソ・キュアロン監督の監督賞と撮影のW受賞に加え、外国語作品賞にも輝く3冠となりました。作品賞の受賞は実現しなかったものの、同作はメキシコ出身の同監督の幼少時代の思い出を描いた作品で、タイムリーなメキシコの映画という点でも注目されたといえます。また、ラミ・マレックの主演男優賞など最多4部門に輝いたのは日本でも大ヒットを記録している「ボヘミアン・ラプソディ」。英ロックバンド、クイーンのボーカルだった故フレディ・マーキュリーの半生を描いた映画ですが、「ゲイで移民で、人生を自分らしく生きたい人の映画。エジプトからの移民の子である自分の物語でもある」とマレックが受賞スピーチしたようにマイノリティーを扱った作品でもあります。また、助演女優賞は「ビール・ストリートの恋人たち」で主人公の母親を演じたレジーナ・キングが、助演男優賞も「グリーンブック」のマハーシャラ・アリスが受賞するなど黒人の飛躍も目立ちました。さらにアメコミ史上初の黒人のスーパーヒーローが主人公の「ブラックパンサー」が衣装デザイン賞など3部門に輝き、脚色賞は白人至上主義団体に潜入捜査した黒人警官を描いたスパイク・リー監督の「ブラック・クランズマン」が受賞しています。

外国語作品賞にノミネートされていた「万引き家族」と長編アニメ映画賞に名を連ねていた「未来のミライ」は共に受賞を逃したものの、日本から2作品が候補にあがったことは大いに注目されるべき点でもあります。授賞式後に会見を開いた「未来のミライ」の細田守監督が、「勝敗をつい意識しがちですが、勝敗以前にノミニーたちの交流が準備されていて次の作品につなげる新しい発見ができる場であった。人間、世界を勝ち組と負け組に分けるのではなく、多様な価値観の中でいろいろな人をたたえるというのがアカデミー賞に参加して感じたこと。(「万引き家族」の)是枝監督とも話しましたが、メキシコ人や黒人など白人男性ではない価値観が今回の受賞結果に入っていて、単なる映画ではなく、多様化するアメリカ社会を反映した賞であると強く感じた」とコメントしていたように、オスカーは社会問題や時事性も重要なテーマとなっていることが強調された授賞式でした。

俳優部門にノミネートされた20人全員が白人だったことから、「白人偏見」と批判されたオスカーから3年。その間「アメリカファースト」や「移民排除」を掲げるトランプ大統領の誕生やハリウッドを激震させたセクハラスキャンダルなどに直面する中で、アカデミー賞が生まれ変わったことを象徴する授賞式だったともいえます。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)