ハリウッドでは原作では有色人種の登場人物を白人の俳優が演じる「ホワイトウォッシング」が、「人種差別」だとして度々物議を醸していますが、今度は広島で被爆した少女の生涯を描く作品で白人女優が主役に抜てきされたとこのほどバラエティー誌が報じたことで、アジア系米国人の間で再びこの問題がクローズアップされています。「ホワイトウォッシング」とは、ダークな肌を白く塗りつぶすことを意味しており、黒人やアジア人、ネイティブアメリカンなど非白人が主人公の原作を基にした作品であえて主人公や主要人物を白人に置き換えるハリウッドの手法を批判する言葉として使われています。ハリウッドの映画界では白人男性が特権を持っていると長年いわれており、人種差別に対する議論は絶えません。白人が中心の映画が増えることによってマイノリティー俳優の活躍する場が奪われ、結果的にアカデミー賞で主演や助演などにノミネートされる俳優の大半は白人になることが多く、2016年にはノミネートされた20人全員が白人だったことから「白すぎるアカデミー賞」と揶揄され、黒人俳優らが授賞式をボイコットする騒動にもなりました。これまでもウィル・スミスらスターたちがこの問題について訴えてきましたが、今もなおハリウッドではこのような人種差別的慣行が続いています。

今回批判の対象となったのは、終戦直前の1945年に広島に投下された原爆によって2歳で被爆して白血病を発症し、わずか12歳で亡くなるまで元気になれると信じて千羽鶴を折り続けた佐々木禎子さんの生涯を描いたハリウッド映画「One Thousand Paper Cranes(千羽鶴)」です。1977年に米絵本作家エレノア・コアさんが禎子さんの物語を児童小説「サダコと千羽鶴」として発表したことで千羽鶴の話が世界中に広がり、16年にオバマ前大統領が広島を訪問した際には原爆資料館で禎子さんの折り紙に関心を示して見学していたことが伝えられています。報道によると今回ハリウッドで映画化されることになった作品の主人公は禎子さんではなく、「サダコと千羽鶴」の著者コアさんであるといいます。これに対してSNSでは、「良い話にはやっぱり白人が必要なんだ」「多くの人が犠牲になった原爆の物語でも主人公は原爆で犠牲になった少女ではなく被爆者を取材した白人になるのね」などと批判的なコメントが多数寄せられています。コアさん役にはミュージカル映画「アクロス・ザ・ユニバース」(07年)やドラマ「ウエストワールド」で知られるエバン・レイチェル・ウッドが抜擢されたと伝えられていますが、現時点で禎子さん役は発表されておらず、禎子さんの生涯がどのように描かれるのかも分かっていません。

メガホンを取るリチャード・レイモンド監督は、11年に出版されたイシノ・タカユキ氏による同名の小説が原作で、「サダコの視点から語られる作品で、エレノアが物語の中心ではない。日本で撮影を行い、寺島しのぶら日本人キャストも出演する」と反論しています。しかし、ハリウッドではこれまでも「ドラゴンボール・エボリューション」(09年)で悟空を白人のジャスティン・チャットウィンが演じ、攻殻機動隊を映画化した「ゴースト・イン・ザ・シェル」(17年)ではスカーレット・ヨハンソンが日本人役に配役されたことなどからアジア系米国人たちからは「またか」と失望の声が上がっているようです。

この問題は今に始まったことではなく、古くは「ティファニーで朝食を」(61年)で白人のミッキー・ルーニーが日本人家主を演じた他、「クレオパトラ」(63年)ではエリザベス・テイラーがエジプトの女王クレオパトラを、「征服者」(56年)では西部劇のスター、ジョン・ウェインがモンゴルの初代皇帝チンギスハンを演じるなど例を挙げると枚挙にいとまがありません。ハリウッドには今も白人が主人公でないと売れないという先入観があることは否めませんが、18年にはスーパーヒーロー映画史上初の黒人が主人公の「ブラックパンサー」が社会現象になるほどの大ヒットを記録してアカデミー賞作品賞にノミネートされたのをはじめ、主要キャスト全員がアジア系の「クレイジー・リッチ!」も批評家から絶賛されました。白人を主人公にした「ドラゴンボール・エボリューション」や「ゴースト・イン・ザ・シェル」は共に興行的に失敗していることからも、観客はホワイトウォッシングを望んでいないことも分かります。ハリウッドの白人偏重はまだまだ根深い問題ですが、今後の配役やストーリーに注目したいと思います。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)