黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警察官によって殺害された事件を受けて全米はもとより世界中に人種差別への抗議デモが拡大していますが、ハリウッドではこれまで数多くの人種差別や警察官による黒人への暴力を描いた作品が製作されています。世界中に広がる抗議運動「ブラック・ライブス・マター(黒人の命は大切)」をより理解するために見るべきおすすめの映画を紹介します。

●「フルートベール駅で」(2013年)

今回のブラック・ライブス・マター運動の発端となったフロイドさんが亡くなった事件の11年前にも白人警察官によって1人の黒人青年が殺害されています。2009年元日にカリフォルニア州オークランドのフルートベール駅で丸腰の22歳の黒人青年オスカー・グラント三世さんが警察官に銃で撃たれて死亡した事件を描いた本作は、なぜ3歳の娘を持つどこにでもいる普通の青年が銃殺されなければならなかったのか、今回のフロイドさん殺害事件同様にいかに人間の命が尊いものなのか見る者に訴えかけています。

●「ヘイト・ユー・ギブ」(2018年)

17年に出版された小説「ザ・ヘイト・ユー・ギブ あなたがくれた憎しみ」を基にした本作は、「フルートベール駅で」で殺害されたグラント三世さんの事件に着想を得て作られた作品。ギャングやドラッグがまん延する低所得者層が暮らす黒人の多い地域で生まれ育った主人公の女子高校生が、目の前で幼なじみが警察官に不当に射殺された事件をきっかけに黒人差別問題に立ち向かう姿を描いた感動のドラマです。

●「ドリーム」(2016年)

アカデミー賞作品賞と脚色賞にノミネートされた本作は、1962年に米国人として初となる地球周回軌道飛行を行った宇宙飛行士ジョン・グレンの成功を影で支えた実在の黒人女性3人の活躍を描いた知られざる物語。黒人に対する人種差別が色濃く残るNASAにおいて、さまざまな差別や苦難に直面しながらも有人飛行計画に多大な貢献を残した黒人の女性数学者たちを描いています。3人の女性の1人を演じたオクタビア・スペンサーはアカデミー賞助演女優賞にノミネートされています。

●「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」(2011年)

60年代の公民権運動を背景に人種差別が根強く残るミシシッピ州ジャクソンを舞台に白人女性と黒人メイドの関係を描いた同名小説を映画化した作品。エマ・ストーン演じる主人公は、黒人のメイドに家事や育児を任せていましたが、黒人メイドに対する世間の差別に違和感を覚えてその実態を取材しようとする物語は、小さな一歩が世界を変えるきっかけとなっていく様子が描かれています。真の主人公ともいえるメイドのエイビリーンを演じたスペンサーは本作でアカデミー賞助演女優賞に輝いています。

スパイク・リー監督(2006年10月3日撮影)
スパイク・リー監督(2006年10月3日撮影)

●「ブラック・クランズマン」(2018年)

60年代の黒人解放運動の指導者として知られるマルコムXを描いた映画「マルコムX」(92年)などで知られるスパイク・リー監督が、米国の人種差別問題を痛烈に風刺したエンターテインメント作品。黒人警察官が白人至上主義団体KKKに潜入捜査する実話を基にしたノンフィクション小説が原作で、黒人であることを隠してKKKのメンバー募集に応募する嘘のような本当の話をコミカルで痛快に描いています。リー監督は本作で念願のアカデミー賞脚本賞を受賞しました。

●「それでも夜は明ける」(2013年)

1853年に発表された奴隷体験記「12イヤーズ・ア・スレーブ」を原作とした本作は、南部の農園に売られて解放されるまでの12年間にわたって奴隷として働かされた黒人男性の壮絶な奴隷生活をつづった実話が基になっています。白人たちに非道な仕打ちを受けながらも自身の尊厳を守り続け、やがて奴隷制度撤廃を訴えるカナダ人労働者と出会うソロモン・ノーサップさんの物語は、見る人たちの胸に深く突き刺さる衝撃の伝記ドラマで、アカデミー賞作品賞、脚色賞、助演女優賞の3部門に輝いています。

●「デトロイト」(2017年)

1967年にミシガン州デトロイトで起きた米史上最大級といわれたデトロイト暴動を描いた実話。暴動で戦場と化したデトロイトを舞台に起きたある殺人事件を題材に、白人警察官による黒人たちへの不当な尋問がリアルに描かれて話題となった作品です。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)