ラッパーでファッションデザイナーでもあるイェことカニエ・ウエストが、反ユダヤ主義的なツイートや陰謀論で物議を醸し、業界追放の危機に直面しています。

過去にも米大統領選への出馬や数々の暴言、奇行などでメディアを騒がせてきたウエストは、2015年からコラボレーションをしたスニーカーで大成功を収めているアディダスから契約を打ち切られ、米経済誌フォーブスが毎年発表している長者番付でビリオネアから転落。

ギャップ、バレンシアガなど大手企業との契約も次々と打ち切られ、四面楚歌状態のウエストですが、これまでの問題発言や行動と共に何が起きているのかその背景を2回に渡ってレポートします。

第1回目はここ1か月ほどの間に起きた、今、世間を騒がせている問題を振り返ってみたいと思います。

■反ユダヤ主義的ツイートで炎上

10月9日におよそ2年ぶりにツイッターに復帰したウエストは、「ユダヤ人にデスコン3(安全保障上の脅威を示す軍事用語デフコンをもじった)する」とツイート。これが問題視されてアカウントが一時凍結される事態に発展。ウエストはこの2日前にも、インスタグラムに反ユダヤ主義的な投稿をしてアカウントの使用を制限されており、これら一連の発言が業界追放の流れへの直接的な引き金になったとされています。

カニエ・ウエスト(06年撮影)
カニエ・ウエスト(06年撮影)

■白人至上主義のスローガンを描いたTシャツ着用で物議

一連の投稿で炎上する少し前の先月初めには、仏パリで行われた自身のブランド「イージー」のファッションショーで「ホワイト・ライブズ・マター(白人の命は大切)」とプリントされたTシャツを着用して登場。黒人への人種差別撲滅運動「ブラック・ライブズ・マター」に抵抗する白人至上主義のスローガンであることから、批判が殺到。モデルのジジ・ハディッドやヘイリー・ビーバーら著名人からも非難が相次ぎ、ファッション業界からの追放に拍車がかかる要因となりました。

■白人警察官に殺害された黒人男性に関する陰謀論を拡散

2020年に白人警察官に膝で首を押さえつけられて亡くなったジョージ・フロイドさんの死因を巡り、「警察官による暴力ではなく、薬物の過剰摂取」だとデマを主張。事件に関わった警察官は裁判で有罪判決を受けており、ブラック・ライブズ・・マター運動が世界的に広がるきっかけにもなったフロイドさんの死を巡る陰謀論は、当然ながら大きな批判を浴び、遺族から損害賠償を求める訴訟も起こされています。

■極右に人気のSNS「パーラー」を買収

「言論の自由」をうたい文句に保守層や極右に人気のSNSプラットフォーム「パーラー」の買収で基本合意したことが明らかになったのは、インスタグラムとツイッターからアカウントを一時凍結された直後のこと。

■タランティーノ監督に映画の原案を盗まれたと主張

クエンティン・タランティーノ監督がメガホンを取った2012年公開の映画「ジャンゴ 繋がれざる者」の原案は自分のもので、アイデアが盗まれたと述べて炎上もしています。英国のジャーナリストで司会者のピアース・モーガン氏とのインタビューで、映画のアイデアを話したタランティーノ監督がそれをもとに「ジャンゴ」を作ったと発言したものですが、同監督はその後に出演した米トーク番組で「事実ではない」と否定しています。

■アポなしでスケッチャーズ社を訪問して追い返される

一連の言動が原因でアディダスとの契約を先月25日打ち切られ、15億ドルを失ったと報じられたウエストは、その2日後にカリフォルニア州にあるスケッチャーズ本社を突撃訪問。しかし、創業当時からユダヤ系が経営する企業であるスケッチャーズからは門前払いを食らい、「一緒に仕事をするつもりはない」との声明が発表される事態になっています。スケッチャーズは一連の反ユダヤ主義的発言を非難しており、ウエストが今後新たな契約先を探すのは困難な状況に陥っていることも浮き彫りとなり、ファッション業界に居場所を失いつつあります。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)