歌舞伎俳優尾上右近(25)が注目されている。新橋演舞場で上演中のスーパー歌舞伎2「ワンピース」で、主演の市川猿之助(41)がカーテンコールでせりに衣装が巻き込まれ、骨折などで完治6カ月の重傷を負った。そのため、若手公演「麦わらの挑戦」にルフィ役で主演を予定していた右近が代役として、連日、舞台に立っている。

 もともと右近の若手公演は、猿之助の本公演よりも料金を下げて設定していたため、歌舞伎の代役公演としては異例な措置として、本公演との差額を返金している。そんな中、猿之助の穴を埋めようという右近、坂東巳之助、中村隼人ら出演者の覚悟が舞台にあふれ、ほとんど払い戻しなしの満員が続いている。

 そんな熱気ある舞台の真ん中に立つ右近は、父方の曽祖父に昭和の名優6代目尾上菊五郎、母方の祖父に昭和を代表する映画スター鶴田浩二というサラブレッド。父は清元宗家である7代目清元延寿太夫で、20代までは俳優岡村菁太郎として大河ドラマ「武田信玄」にも出演するなど活躍していた。

 実は30年ほど前、右近の両親の結婚は、私が特ダネとして書いている。右近の祖母に取材して記事を書いたが、その時の言葉の端々に父6代目菊五郎の血脈を伝えたいという思いを強く感じた。姉は17代目中村勘三郎と結婚し、18代目中村勘三郎が生まれている。18代目勘三郎と菁太郎はいとこに当たり、共演の機会も多かった。しかし、その頃の菁太郎は父の病気もあって、清元に専念し始めた時期で、将来生まれる孫に歌舞伎の道を歩んでほしいという期待感をひしひしと感じたものだった。

 次男として生まれた右近も3歳ごろに、曽祖父菊五郎の映像「春興鏡獅子」に魅了され、役者を志した。子供心に曽祖父と同じように獅子の精を踊りたいと思うようになった。今も自宅の部屋に曽祖父が使った菊の蒔絵(まきえ)入りのキセルを宝物に飾っているという。00年に初舞台を踏み、歌舞伎俳優の道を歩み始めた。遅いスタートだったが、勉強熱心で、すぐに頭角を現した。15年から勉強会「研の會」を始め、これまで3回開催し、「春興鏡獅子」の獅子の精、「神霊矢口渡」のお舟など大役に挑んでいる。

 来年2月には、祖父6代目延寿太夫の三十三回忌追善の会で「6代目清元栄寿太夫」を襲名する。平成生まれの若手がひしめく中で、今回の代役劇で大きなチャンスを得た格好の右近だが、今後は父は果たせなかった清元と歌舞伎俳優の二刀流を貫いていく。【林尚之】