歌舞伎公演が3月から休演が続いている。本来なら、歌舞伎座では5月から「13代目市川團十郎白猿襲名披露公演」が始まっているはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大ですべてが吹っ飛んだ。

影響は各方面にも及んだが、唯一の歌舞伎専門月刊誌である「演劇界」(演劇出版社、発売元・小学館)も例外ではなかった。1907年(明40)創刊の「演藝画報」を母体に113年の歴史を持ち、前月上演された舞台の写真を数多く掲載し、多くの歌舞伎ファンに愛されていた。しかし、公演は休んでいる中で、掲載すべき舞台写真がなくなった。

そこで、大木夏子編集長は「舞台の休演が続いているので、俳優さんの舞台写真と言葉を読者の方々に届けられたら」と、「演劇界」6・7月号で大特集を組んだ。坂田藤十郎、尾上菊五郎、松本白鸚、中村吉右衛門、片岡仁左衛門、中村梅玉、坂東玉三郎ら117人の歌舞伎俳優がそれぞれの「このひと役」を選び、その舞台写真と今の思いが掲載された。

直接の取材は難しいため、電話や書面による取材や、俳優本人が書いてきたりして、幹部俳優をはじめ、初舞台を踏んだ御曹司、部屋子の全員から集まった。菊五郎は「このひと役」に「魚屋宗五郎」の宗五郎を挙げ、「歌舞伎は大勢のお客様から大きな声援をいただいて成り立ってます。新型コロナウイルスを退治する薬が早くできるのを待つばかりです」と言えば、吉右衛門は「熊谷陣屋」の熊谷直実を挙げ、「家で堪えながらつくづく思ったのは、私はお客様の声援あってこその人間だという、当たり前のことでした」という。

5月29日に発売され、6月2日には完売し、早々に異例の重版が決定した。大木編集長は「読者の方々からの反響が大きかった。休演が続いたことで、『あらためて歌舞伎が好きなことが分かった』『歌舞伎公演が再び始まることを楽しみにしています』など、歌舞伎の再開を待っていることが伝わってきました。歌舞伎に触れたというファンが数多くいることも実感しました」と話している。

歌舞伎座は「13代目市川團十郎白猿襲名公演」が延期となったため、6月、7月も休演しており、歌舞伎座の再開は8月からとなる見込み。再び「○○屋!」という大向こうの掛け声が聴ける日が待ち遠しい。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)