奈良岡朋子さんが亡くなった。93歳だった。1948年(昭23)に劇団民藝の研究生となってから75年近くも女優として舞台、テレビ、映画で活躍した。さらに、劇団の代表として、演劇が多様化する中で厳しい状況が続く劇団のかじ取りも担っていた。「新劇女優」という言葉を体現した人だった。

理知的な演技と、よく通る声が魅力だった。くっきりと目立つ額から「デコ」の愛称で愛された。名付け親は師匠でもあった宇野重吉さん。稽古の厳しさで知られる演出家でもあったけれど、奈良岡さんは宇野さんに鍛えられた。「かもめ」のマーシャ、「奇跡の人」のサリバン先生、「セールスマンの死」のリンダ、「根岸庵律女」の律、「グレイクリスマス」の華子、仲代達矢さんと共演した「ドライビング・ミス・デイジー」、83歳で主演した「八月の鯨」など心に残る、見事な演技を見ることができた。

テレビでは人気ドラマ「おしん」などのナレーションを務め、商業演劇でも森光子さんの「放浪記」で林芙美子のライバル日夏京子を演じて、うまさが際立った。紫綬褒章をはじめ、紀伊国屋演劇賞、芸術祭大賞、菊田一夫演劇賞、毎日芸術賞、読売演劇大賞芸術栄誉賞など数多くの賞を得ている。

交友関係は幅広く、石原裕次郎さん、美空ひばりさんとも親しく付き合い、大竹しのぶら後輩女優からも慕われた。テレビプロデューサーの石井ふく子さんとは同じマンションの上と下で住んでいた。

奈良岡さんは生前、死後に発表するコメントを託していた。劇団がマスコミに訃報を伝えた際、奈良岡さんのコメントも一緒に送られてきた。長い記者生活で、本人のコメントがある訃報は初めてのことだった。コメントでは大女優だった杉村春子さんと「どんな役でもいいからご一緒したい。ワクワクします」と女優魂を垣間見せる一方で、「裕ちゃん(石原裕次郎さん)や和枝さん(美空ひばり)と思いっきり遊びます」とちゃめっ気ある言葉を残している。天国という第二幕でも、「新劇女優奈良岡朋子」の活躍が期待できそうです。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)

奈良岡朋子さん(2012年10月撮影)
奈良岡朋子さん(2012年10月撮影)
奈良岡朋子さん(2017年5月撮影)
奈良岡朋子さん(2017年5月撮影)