AKB48グループ3代目総監督の向井地美音(22)が各界のリーダーから「リーダー論」を学ぶ第7回は仮想ライブ空間「SHOWROOM」を運営する前田裕二社長(33)の後編です。コロナ禍をへて今後求められるリーダー像から、AKB48グループの今後の展望まで、語り合いました。【取材・構成=大友陽平】

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向井地 前回は前田社長がリーダーとして意識されている、「仲間を愛する」「仲間をワクワクさせる」「とにかく高いレベルを求める」という3か条についてお話を聞きました。前田社長は、何か決断する時に大事にしていることはありますか?

前田 僕は右脳型の人間なので、直感や感覚をとても大事にしています。SHOWROOMは、昔、自分が路上で弾き語りしていた時の経験が大きくて、「ありがとう」と言ってお金を置いていった方の顔が思い浮かんでいたという感覚でした。でも困ったことに、「何者でもない人の感覚」には、誰もついてこないもの。それゆえ、感覚をしっかりロジックで補強しました。例えば、設立当時は、ライブ配信が中国で流行(はや)っていて、この流れが日本でも来る、と説明しました。もっと言うと、「アジア圏でPC(パソコン)ベースで流行ったものを、日本のモバイル環境に最適化させて流行らせる」という戦略でしたが、これは、ソーシャルゲームが日本で流行った理屈と一緒です。同じことが、「ライブ配信」という分野においても再現する、と主張しました。

向井地 そんな経験があったんですね!

前田 僕は小さい頃に両親が亡くなっているので、兄に育ててもらったんですけど、兄からはいつも何かに迷ったら「後悔しないような決断をしてくれればいいよ」と言われていたんですけど、その言葉を受けて、何かを選択した「後」に、兄に「正解だったよ」と伝えられるように、努力してきました。選んだ方を正解にしようと思って、いつもがむしゃらにやっています。僕は、決断の本質は「後」にあると思っています。

向井地 あと(前田社長の著書)「人生の勝算」を読ませていただいて気になったのですが、前田社長は「AKB48はスナック街である」とおっしゃられていました。このスナック要素って、まさに握手会で満たせていたと思うのですが、今はコロナ禍で、握手会などもできない中で、どうしたらいいと思いますか?

前田 例えば握手会で、スナックっぽいと思う要素って、どんなものがありますか?

向井地 握手会でのファンの方とのコミュニケーションの中で、例えば選抜総選挙があったら目標を共有しつつ、じゃあ何位になろう、そうするとライバルは誰になるのかと「仮想の敵」ができて…。

前田 すごく読んで、勉強してくれてますね!

向井地 人と人で話しているので、そこに余白があるというか…。会えるからこそ、従来のアイドル像とは違って、その親近感を好きでいてくれています。1人1人で「スナック」的なことはできていると思うんですけど、全体としてだったり、なかなか会えなくなってしまったことで、個人との関係性も難しいので、どのように心のつながりをつくればいいんだろうと…。

前田 皆さんも利用してくれているSHOWROOMの配信は、「1対n」というか、複数の方が見てくれるからこそ、「1対1」の関係は、握手会ほど作りづらいですよね。例えば僕は「オンラインサロン」をやっていて1万人くらい会員がいます。これもリーダーシップの本質だと思うんですけど、本当にいいスナックって、極論するとママがいなくなってしまっても、お店さえ開いていれば、誰かが来て、ママの思い出話をする…という感じなんです。「オンラインサロン」でも、もちろん、できれば自分がママとしてお店に立てる時間が長いほどいいわけですが、長い目で見ると、いかに自分の稼働なしでもみんなが幸せになれるかということばかり考えていて。例えば、「横のつながり」がそれにあたるわけですが、意識的にそういった設計をしています。例えば、サロンの中で「イベント部」とか部活動的なものを立ち上げているのですが、すごくスナック的だなと思うのは、その部のリーダーが、もはやお客さんではなくなっていること。ほぼカウンターの中に入って、もはやお店運営側に回っているんです。

向井地 なるほど。

前田 ちょっと具体的なアドバイスになるんですけど、もし自分がAKB48のメンバーで、仮にファンの数が1万人だったとしたら、ファンの皆さんの中にリーダー格みたいなひとを100人作ります。1万人のファンの方と1人1人丁寧に握手会をするのがこれまでのあり方だったのかもしれませんが、今はどうしてもコミュニケーション機会が減ってしまうので、別の方法を編み出さないといけない。例えば僕なら、まず100人のリーダーとのコミュニケーションに集中する。とにかく密に話をしていって、絆(きずな)を育み、そのリーダーが絆の力でその向こう側にいる100人を束ねてくれたら、100人のリーダーを介して1万人と心をつなげることができるかもしれない。

向井地 ファンの方々同士のコミュニティー作りですね!

前田 まさに。自分が稼働をとめたら終わってしまうコミュニティーは、弱くもろいです。例えば、アップルを設立したスティーブ・ジョブズはもう亡くなってるけど、iPhoneは世界で一番使われています。これこそ究極のリーダーシップだと思っています。いなくなった後にも影響力を増やして、人の幸せを増やしている。これがリーダーの本質なのかなと。彼は、アップルはこうあるべきだ、というビジョンを示し、そして誰よりもアップルを愛した。永続するリーダーになるのは、強い「ビジョンと愛」が必要なのでしょう。これらは、リーダーが死んでもなくならず、残り続けるので。

向井地 確かにいなくなってからも影響力があるのはすごいです。

前田 僕が憧れるリーダーには、例えば、(パナソニック創業者の)松下幸之助さんや(前漢の初代皇帝)劉邦がいます。2人に共通するのもやはり、ビジョンが明確で愛があること。自分が死んだ後も続く会社や、王朝を作ると言って、それを実際に実現しているんですね。劉邦の例を見ると、彼はもともと農家の出身で、40代でリーダーになった飲んだくれの変な人なのに、のちに400年も続く王朝を作りました。彼は本当にお酒好きだったようで、笑ってしまう失敗エピソードも多いんですけど、すごかったのは熱く大きなビジョンがあることに加えて、仲間を愛していたことです。例えば戦で勝った時の報酬も、目立たないポジションの仲間にもたくさんあげたりする。「劉邦さんは見てくれていたんだ」と、心でつながるわけです。ライバルだった項羽は、どちらかというと、強さや目的でつながる。高度成長期からしばらくは、リーダーの型も「項羽型」が多かったと思うんですけど、これからの時代は、コロナの影響で人と人とのつながりが希薄になりそうな中、心にぽっかり空いた穴を埋めてくれるような愛のある「劉邦型」のリーダーが求められているような気がしています。向井地さんもどちらかというと、そのタイプなのかなと思うんです。

向井地 グループへの愛だけは自信があります!

前田 すばらしい! その愛を言語化して、明確な「視座」や「視点」にかえれば、みんなもっとワクワクしますね。向井地さんは、すさまじいリーダーになれると思いますよ。

向井地 ありがとうございます!

前田 そうだ、ちなみに前回話した、「とにかく高いレベルを求める」時に、僕が向井地さんだったら、別の誰かにやらせますね。

向井地 なるほど!

前田 自分は「愛とワクワク」担当になる、というリーダーの戦略もあります。もちろん、高い要求がないと、組織としてはなれ合いになっていくので、それを防ぐために、誰か圧倒的に要求レベルが高い人を置く必要はあります。でもきっと、その人は一時的には嫌われるので、進んでやりたがる人はいないかもしれないですけど、「結果が全てを癒やす」という言葉もあって、勝てばみんな、その人の正しさが分かってくる。成長を振り返ったときに、一時は「ムカつく」と思ったとしても、正しいことを言われた方が結果、成長できる可能性が高い。でも、リーダーはなるべく「ムカつかれない」方が良いのも一方事実なので、それもリーダーの設計ですね。嫌われ役を自分でやるか、誰かに任せるか。もし任せるなら、誰か鋼の心と戦闘力を兼ね備えた人を見つける必要があります。きっとたかみな(高橋みなみ)さんは、「愛とワクワクと戦闘力(≒嫌われ役)」を全部1人でやってのけたのかもしれないですね。もちろん、向井地さんが今後その方向にいって、スパルタ的にキャラ変するのも、ありだと思いますよ!(笑い)

向井地 そ、それは…(苦笑い)

前田 ちなみに、高い要求をするリーダーになると、自分も成長するという副産物があります。人に言うからには、自分も高めないといけないからです。僕もそれで成長できていると思っています。例えば、瑛人の「香水」が今なぜ流行っているのか? って答えをメンバーに求めるなら、自分も当然話せなくてはいけない。TikTok発だからなのか? 歌詞のハマりがポイントか? 「ドルチェ&ガッバーナ」というワードチョイスが天才なのか? ネット時代ゆえに曲を聞いてもらえるのは一瞬となると、やはり具体的でインパクトのある言葉選びが重要なのか? 自分の中でもそんな分析とか、「視点」をどんどんためていく。そうすると、成長スピードが上がっていくと思います。「これ、瑛人じゃなくて、自分たちがやれたのに!」って悔しくて夜も眠れないくらいのリーダーがいいですよね。それに、もしかしたら自分たちでもできたことかもしれないじゃないですか? 向井地さんは必ずやれると思います。なんだかワクワクしますね! こんな話をしていると、僕自身がAKB48に入りたい気持ちになってきました(笑い)。それくらい、僕もAKB48が大好きで、これからやれることが本当にたくさんあると思います。そんな気持ちで、今回の対談にも臨みました。

向井地 ありがとうございます! SHOWROOMさんも、引き続きよろしくお願いします!

前田 そういえば、SHOWROOMも、実はこの2カ月くらいで女性ユーザーが急増しているんです。そこもAKBにとってチャンスだと思います! AKBの次なる展開として「いかに女性ファンに支持してもらえるか」は極めて重要なことだと思いますが、そこで向井地さんがリーダーであることは大きな意味を持つなと。向井地さんは、女性が憧れる、好きだなと思える、理想像だと思うんです。凜(りん)とした強さと、女性らしさを兼ね備えているので。

向井地 いやいやいや…(照れ笑い)

前田 昔からAKB48が「好き」で、それがきっかけで自分がメンバーになって…というストーリーも、僕が女の子だったら、「いいな」と思うポイントです。AKB48が女性ファンをひきつけるためには、向井地さんのように「好き」という思いでやっているのが大切です。向井地さんは、女の子らしさという観点で洗練されていると思うので、これからは女の子からも「かわいいな」と憧れられるグループとなれたらいいですよね。アジアから世界で活躍している国際的なアイドルグループの多くはそうなっていると思います。そこを「視座」にして、向井地さん独自の「視点」を入れ込むことで、必ず勝ちにいけると思います。これからのさらなる飛躍を、心から信じて、期待しています!

向井地 頑張ります! 今日はありがとうございました!

◆前田裕二(まえだ・ゆうじ)1987年(昭62)6月23日、東京都生まれ。早大政経学部卒業後、外資系投資銀行に入社し、ニューヨークでも活躍。13年5月にDeNA南場智子会長との縁でDeNA入り。同年11月に「SHOWROOM」を設立。17年6月に初の著書「人生の勝算」を発売。18年12月発売の「メモの魔力」(ともに幻冬舎)は、売り上げ60万部(電子版含む)を超えるベストセラーに。現在、日本テレビ系「スッキリ」でコメンテーター。

SHOWROOM前田裕二社長
SHOWROOM前田裕二社長