「いろいろなことを感じながらやってきた、この10年」と口にした、佐藤浩市(62)の瞳には、さまざまな色が宿る。父三国連太郎さんが亡くなって、10年…その間に、息子の寛一郎(27)が自分と同じように、父と同じ道を歩き始めた。その息子と、俳優として真正面からぶつかり合った「せかいのおきく」を含め、今年は出演した9本の映画が公開された。そのトリを飾り、公開中の「愛にイナズマ」を通して人生と家族、役者と芝居を、自らをさらけ出すように吐露した。

★62歳

「愛にイナズマ」で佐藤が演じたのは、妻に愛想を尽かされたダメな父親だ。松岡茉優(28)演じる娘が、映画監督デビュー前に全てを失い、自分しか撮れない映画を、家族を題材に撮ろうと向けてきたカメラを前に、子どもが大人になるまでひた隠しにしてきた真相を語ったことで、家族は再び1つになっていく。

「自分も結局は去る(人生が終わる)し(子どもに)会えなくなることが明らかな以上(その立場になって)感じられて、言えることがあるということ。息子、娘に伝わる何かがあって報われた。家族って、そういうもんじゃないかって。いなくなる前に気付けばいいんだけど、いなくならないと気付けないものじゃないですかね」

出演した映画が1年で9本公開と、60代になっても日本映画界のど真ん中に立ち続ける。一方で役柄はシフトしてきた。若いボクサーを父親のように鍛え、育てる元ボクサーを演じた主演映画「春に散る」含め4本で父親的な役を演じた。

「9本中8本、死んでる役ですから(笑い)確かに、自分自身も気付けば62歳…どうしても、そういう年齢でもあるしね。役者というのは不思議なもんで、詰め襟を着られる時から子供ができ、親になる…ある種、自分が分岐になるような年齢で、そういう役をやる。良い意味でも悪い意味でも、老醜をさらせる役をやる中で自分が、それを楽しめるかどうかも含めてね」

★絶賛

「愛にイナズマ」で松岡と池松壮亮(33)若葉竜也(34)と演じた、激しくもいとおしい家族げんかのシーンをはじめ、近年は若い俳優との芝居のぶつかり合いが、そのまま作品の見どころとなっている。舞台あいさつで、作品や役に向き合う若い俳優のストイックさを褒める機会も増えた。絶賛するのが「愛にイナズマ」と主演映画「春に散る」でも共演した窪田正孝(35)だ。窪田と運命的に出会う場面を演じた松岡にも、感じるものがある。

「よく分かっている中で、うまい具合に食い散らかしてるのが窪田の芝居。何か1つ、抜けて見せられるのは…やっぱり窪田かな。茉優は女優さんらしくないぐらい何でもかんでも丁寧に全部、拾っちゃうタイプ。だから逆に後半で、自分がバーッと走る時には、何かが突き抜けるんだよね。そこら辺は面白かった」

窪田と松岡演じる2人の男女の出会いを描いた前半、家族げんかを描いた後半と、全く違う話が絶妙なバランスで共存した「愛にイナズマ」を絶賛した。

「2人(松岡と窪田)は全く違う個性の中で演者としてのバランスを、うまい具合に取れる。台本は読んでいたけど、前半の芝居を見ていないわけで…。後半の家族の、お芝居合戦がすごく面白かったし良かったから前半、大丈夫かなと心配して初号試写を見たら…抜きんでた2人が後半とは全く違うテイスト感で、お芝居が面白い。これだけ不可思議なバランスが取れた映画、ないと思うくらい。それも全く違和感がない。(映画として)ちょっと抜けていると思いました。演者として楽しめたんでね」

★親子

その若い世代の一角に、寛一郎が食い込んできた。俳優になりたいと打ち明けられた時、自らが地下鉄東西線のホームで打ち明けた際の三国さんの返答と同じく「あっ、そう」と返した。俳優デビューが明らかになった17年3月から6年。「せかいのおきく」では、下肥買いと浪人が、かわやで語り合う場面で役者として真正面からぶつかった。

「扉1枚、隔てた彼と用を足している自分が全く顔を合わせず…でも(台本)数ページの会話をすることが、ものすごくうまく成立する面白さ。(寛一郎の)声しか聞こえないながら、向こうにいるたたずまいが絶対、成立していると感じられた。親子を知っている阪本(順治)監督だからこそ、うまい具合に書いてくれた。監督に『一切、映らなくて良い。声、せりふだけでも十分に面白いから』って言ったら『いや、やっぱり撮る』と言うから、かわやに入ったけど(笑い)」

俳優になると打ち明けた時、三国さんは内心で「何もなかったらどうするんだ、この男?」と思ったといい、寛一郎から俳優になると告げられた時に自分も同じ思いを抱いた。同じ阪本監督の20年「一度も撃ってません」での初共演を経て寛一郎を今、どう思うか。

「作品、人、本…どういう出会いが彼の中にあるか、それは運。その中で1つ、化けられるか? ということ。こういうことを言うと誤解があるのかもしれないけれど…クエスチョンマークじゃない、大丈夫かなという思いを感じられた」

★執念

寛一郎は4月の「せかいのおきく」の完成披露で「いまいましい、ふざけた佐藤家のDNAを100年後も残して欲しい。僕も頑張る」と語った。その言葉に一頃は確執もあった三国さんへの思いが込み上げた。

「どんなに否定しようが、三国連太郎がいなければ今の自分はいなかった。良い意味でのスタートラインにつけた。恵まれていることだけは認識しなければいけない。それは彼(寛一郎)も一緒。考えたくない…最初はそれでいいけど、全て受け入れた時に1歩、前に踏み出せたということ」

還暦を過ぎた身を奮い立たせているのは、晩年の三国さんが見せた執念だ。

「90歳で逝った数年前から、思ったようにお芝居が出来ない不自由さを身体的に感じていた。それでも最後まで執着したカメラの前に立ちたいという気持ちを、自分が幾つまで持てるか。体が動く。頭もまだ多少は働く以上、お芝居することが恵まれていると感じなきゃいけない。もう、いいやと投げ出したくもなる時も確かにある。そうした時は三国を思い出しますね」

私生活では乳児院や児童養護施設の子どもを週末や休暇中に預かるフレンドホームの取り組みを5年続けている。そのことが俳優としても血肉になっている。

「妻がやりたいと言ったことを応援しているだけ。恵まれてきた自分が少しだけ何か出来るなら…その気持ちしかない。普通に考えてきたこととは違う生きざまを子どもたちに見せてもらい、気づかされることもある。僕も1回、家庭が破綻し離婚しています。その後も自分が破綻した人間として、いたとすれば、どう頭の中で考えたことであっても(芝居で)伝わりきれないものもある。家族に救われ、守られたことが当然、表現としてあるわけだし今回(『愛にイナズマ』)も当然あったと思います」

家族を思い、悩み…気付いた家族の愛を今、スクリーンに還元している俳優・佐藤浩市。その背中は、日本映画界を照らし続ける。

▼「愛にイナズマ」で娘役を演じた松岡茉優

試写で私が浩市さんの隣に座って、エンドロールが流れ切った後、浩市さんが(拳を握って)グーって、やってくださったんですよ…やったなという感じで。自分は初めて見たし、映画の感想はあっても自分の(演技への)感想は、まだなかったんですけど、お顔を見て、浩市さんの中で私は花子を演じられたのかなと、ちょっと自信が付いた瞬間で。うれしくて、やったと思いました。

◆佐藤浩市(さとう・こういち)

1960年(昭35)12月10日、東京都生まれ。80年のNHKドラマ「続・続事件」でデビュー。81年の初主演映画「青春の門」でブルーリボン賞新人賞。94年「忠臣蔵外伝/四谷怪談」と16年「64-ロクヨン-前編」で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞。今年、公開された映画は「ファミリア」「仕掛人・藤枝梅安 第二作」「映画ネメシス 黄金螺旋の謎」「大名倒産」「中洲のこども」「キングダム 運命の炎」。182センチ。血液型A。

◆「愛にイナズマ」

折村花子(松岡)は空気を読めないが魅力的な舘正夫(窪田)と運命的に出会う。夢の映画監督デビュー目前にだまされ、企画まで全て奪われた中、反撃を決意し父治(佐藤)兄誠一(池松)と雄二(若葉)のダメ家族が抱える秘密を映画にして世の中を見返すと息巻く。

94年12月、日刊スポーツ映画大賞で主演男優賞を受賞。プレゼンターで登場した三国連太郎と
94年12月、日刊スポーツ映画大賞で主演男優賞を受賞。プレゼンターで登場した三国連太郎と
 
 
4月、舞台あいさつにそろって登壇した佐藤浩市(右)と寛一郎
4月、舞台あいさつにそろって登壇した佐藤浩市(右)と寛一郎