数年前、アイドルが多数所属している事務所の社長に「最近どうですか?」と尋ねたところ「女子は乃木坂・欅坂が出てきてクオリティーで全く歯が立たなくなった。さらにお客さんがお金を使い果たしたのか相当財布が固いこともあり、女子アイドルでもうかる時代は終焉(しゅうえん)を迎えたのかもしれない。逆に今はメンズアイドルのほうが勢いがある」と聞かされた。

メンズアイドル? 当時はあまりピンときていなかったが、ここに来て俳優としての彼らと仕事をする機会が増えてきた。まずいくつかのグループに分かれる。断然、先頭を走っているのが国民的グループが多数所属するジャニーズ事務所、そしてEXILE(エグザイル)を中心としたLDH勢が人気ランキングのほとんどを占めるのではないだろうか。

そこに続くのが、山田孝之や北川景子が所属する大手事務所・スターダストプロモーションに所属するEBiDAN(恵比寿学園男子部)、ここには超特急はじめ、俳優として頭角を現している北村匠海が所属するDISH//も含まれ、他にもM!LK、SUPER★DRAGON、さくらしめじ…と多くのグループが名を連ねる。

さらにNiziU同様、オーディション番組にて結成されたJO1(ジェイオーワン)、AAAの弟分としてavexに所属するDa-iCE、東海エリアのメンバーで構成されたBOYS AND MENに、動画投稿サイト初のMeseMoa.が後に続くのであろうか。いずれもライブでは数千人を動員する力のあるグループである。

十数年前であると考えられない状況ではある。当時、メンズアイドルグループといえばジャニーズ一択の時代であった。そこにきてこの状況、いくつか要因を分析してみる。まずはLDH、こちらはジャニーズと見た目からして全く被らず、ターゲットも女性と言っても少しやんちゃな感じだろうか。ダンスブームも後押しし、子供たちにも大人気。中目黒を歩くと、ちびっこEXILEにたくさん出会う。

そしてBOYS AND MENは東海地区から出てきている。関ジャニなどで関西は網羅しているといえるが、東海地区出身のグループはいなく、ここもまた穴場であった。EBiDANに関しては大手事務所をバックにしているが、それ以外でもネットにアップできる画像にブログやインスタなどのSNS、さらには特典会などで写真が撮れたりするとのこと。ここもまたメジャーなメンズアイドルの世界では、新開拓の分野ではなかろうか。

他にも毎日のようにライブハウスでライブをし、チェキで生活費を稼いでいる地下アイドルもたくさんいると聞く。

さて本題。今回紹介するのは4月にアイドルグループから転身した、フクシノブキ(福士申樹)。先日まで私が演出する舞台に主演として出演してくれていた。フクシ君以外のメンバーは、EBiDANやナベプロ名古屋のグループはじめ、2・5次元で活躍する俳優。そして地下で活躍するメンズアイドルなどさまざまなメンツであった。

まさにメンズアイドル群雄割拠時代を表すにふさわしいキャスティング。サッカー好きなので例えると、常勝軍団からのメンバーを筆頭に、U-16日本代表に、強豪チームが提携しているユース上がりの選手。そしてJFLの実力者といったところだろうか。もちろん価値観もやってきたサッカーも違うのだが、多くのメンバーに共通していえるのは、必ずしも日の当たるところだけを歩いてきてはいないということ。そう、どこかハングリーさのあるメンツであった。

なので仲良くなるのも早く、最終的にはいいチームワークができ、結果として天皇杯地区予選は突破したと実感している(なんのこっちゃ。笑い)。そしてフクシ君、全てにおいて質が高く、特筆すべきはそのメンタリティー。誰よりも早く現場にきて、一番多いであろうセリフを誰よりも早く覚える。演出や制作に疑問を感じたら物おじせずに質問してくる。若い子中心なので多少の余裕でと思っていたが、彼がいることで結果全く手が抜けないことに(笑い)。

また彼自身、今まで会ったことのないようなさまざまなメンバーがいる中、最初は戸惑っていたが、徐々に打ち解け、気付いたら座長として、リーダーとして、その位置を不動のものにしていた。さすがです。

アイドルから俳優になるのが当たり前になった今、彼らの中で俳優の世界を制するものが出てくるのかもしれない。メンズアイドル、今後の彼らに注目です。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画『リュウセイ』の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営。今夏には最新作「元メンに呼び出されたら、そこは異次元空間だった」が公開予定。(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)