テレビ局買収の攻防戦を描くドラマ「新しい王様」が話題だ。藤原竜也×香川照之で1月にTBS深夜で放送されるや、ホリエモンこと実業家堀江貴文氏もツイッターで「やばいくらい面白い」。テレビ局の舞台裏もあけすけに描かれ、現在シーズン2が動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信されている。ハマって見ている1人として、プロデュース、脚本、演出を担当する山口雅俊氏に話を聞いた。

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TBS×Paraviスペシャルドラマ「新しい王様」(C)TBS
TBS×Paraviスペシャルドラマ「新しい王様」(C)TBS

-テレビ局買収をめぐる攻防と、番組制作の舞台裏がすごい見ごたえですが、制作のきっかけは。

山口 なんとなくこういうジャンルの企画を思い描いていた時期に、企業買収を描いた「ハゲタカ」(07年、NHK)を見て。訓覇圭プロデューサーに会って、素晴らしい作品だけど登場人物たちが立派すぎるのでは、みたいなことを話しました。起業家の人たちってもっと「女性にモテたい」とか「すごいオフィスでハッタリかましたい」みたいな俗な欲求もあると思うんですよ。「立派すぎないハゲタカを作ります」と訓覇さんに宣言してようやくできた作品です。

-買収の舞台をテレビ局にした意図は。

山口 勝手知ったる業界に踏み込んだら面白いかなと。今までのテレビ局ものには物足りなさもあったので、ある程度怒られるだろうなと思いながらも(笑い)、ちゃんと取材したのでやってみようと。

-大手プロダクションのご威光のかかった女優A(夏菜)が番手を上げていくくだりは爆笑で、彼女の扱いをめぐるテレビマン同士の対立も生々しいです。

山口 「これは俺のことじゃないか」とか怒られそうですが、このドラマに特定のモデルはいません。僕が今まで会った人たちや経験、取材を複合して作っています。フジテレビを独立して15年になりますが、いま放送できるギリギリがなんとなく自分で分かるので、女優Aのああいうリアルをドラマでやってもいいんじゃないかと。

TBS×Paraviスペシャルドラマ「新しい王様」(C)TBS
TBS×Paraviスペシャルドラマ「新しい王様」(C)TBS

-ドラマで描いている中央テレビの買収は、ホリエモンがフジテレビ、楽天がTBSに買収を仕掛けた05年あたりの騒動をベースにしているのですか。

山口 それはありません。「新しい王様」を配信で見ている新しい世代の視聴者は、あの騒動を知らないですよ。テレビ局買収を舞台にしてはいますが、描きたいのはお金と幸せの関係。ZOZOの前澤社長の月旅行とか、ゴーン前会長の報酬問題とか、お金の格差がより苛烈化して見えなくなっている時代に、お金と幸せの関係について若い人が迷って分からなくなっている。「お金もうけは悪いことだ」では何も解決しない。対極のお金哲学を持ち、互角に戦えるアキバ(藤原)と越中(香川)を通して、最終話までに答えを出す試みです。

-中央テレビを通して、放送業界の旧態依然ぶりも描かれています。相当の株を買われた状況下でも社長が役員会で「視聴率がすべてを解決する」とハッパをかけるくだりとか。

山口 視聴率はとても分かりやすい指標だから、そう考える経営者もいるだろうなと。僕がフジにいた時、上層部が「今この瞬間をもって、視聴率をとれるドラマを良いドラマとする」と言ったことがあって(笑い)、組織ってそういう名言が生まれがち。中にいてこそ面白いことってたくさんあるんですよ。

ドラマ「新しい王様」について語る山口雅俊プロデューサー
ドラマ「新しい王様」について語る山口雅俊プロデューサー

-作品と関係ないとはいえ、フジの買収騒動の時は山口さんは社員でした。当時の心境は。

山口 アキバにも言わせていることなんですけど、株をたくさん買われれば企業は身構える。何をされるんだろうって。でも、ずっと平時が続かないアラート状態も、いいことなんですよ。

-ドラマの制作現場も同時進行で面白いですよね。「同じような顔ぶれ、どこかで見たようなストーリーのドラマ作りをぶっ壊したい」と力説するディレクターも、それを全否定する上司の言葉にも説得力があります。

山口 今まで「テレビ局をぶっ壊したい」と言った人は何人もいるけど、テレビ局の社員というのはすごく居心地が良くて、その年収と地位にしがみついたら何もぶっ壊せないと。「月9をぶっ壊したい」とかもよく聞きましたけど、ぶっ壊せないだろうなあと(笑い)。

一方で、こつこつあいさつ回りをしている弱小プロダクションの社長(モロ諸岡)と新人女優(武田玲奈)みたいな、応援したくなる登場人物もたくさんいますよね。

山口 マネジャーが頭下げて渡したプロフィルが捨てられる場面というのは何べんも目撃してきて。松嶋菜々子さんのプロフィルが捨てられるのも見たことがあります(笑い)。彼女が売れて、そのプロデューサーがマネジャーへの態度をひょう変させたのも見たことがある(笑い)。

TBS×Paraviスペシャルドラマ「新しい王様」(C)TBS
TBS×Paraviスペシャルドラマ「新しい王様」(C)TBS

-このドラマを見ていると、報道や情報番組などもいかに編集で印象を操作しがちかと分かります。メディアリテラシーの重要性は、山口さんの訴えたいことでもあるのですか。

山口 覆面をした人に自分のカード番号なんか教えないのに、ネットの空間だと教えちゃうじゃないですか。なるほどと思ったらウラもとらずにリツイートするとか。でも、そういう危険性はいつの時代もある。テレビ局の偉い人が「電車で女子高生たちがウチのドラマを絶賛していた」なんてことを、評判を知る上での重要なサンプルみたいに言っているのとか(笑い)。「電車の女子高生が言ってたから」も「ネットに書いてあったから」も、危うさとしては変わらないと思います。

-せりふにもある“テレビとネットの融合”という言葉はそれこそライブドア騒動のころからありますが、永遠のテーマなのでしょうか。

山口 SNSがなかった当時と違い、スマホの出現は大きいですよね。今はスマホを片手にテレビを見ていて、SNSに書き込んだことが拡散する時代。大手配給会社の中には、映画館もスマホ解禁にしていいんじゃないかという人もいる。スクリーン見ながらツイートしてくれた方が次の集客になると。これからは、もっと融合するんじゃないですかね。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)

◆ドラマ「新しい王様」 TBSと動画配信サービス「Paravi(パラビ)」の共同制作。現在、第2シーズン(30分×全9話)をパラビで配信中。毎週1話ずつ、木曜日に配信しており、現在3話まで配信されている。