連続ドラマ「サワコ~それは、果てなき復讐~」(C)BS-TBS
連続ドラマ「サワコ~それは、果てなき復讐~」(C)BS-TBS

週に約45本もの作品が放送されている秋ドラマ界で、BS-TBS「サワコ~それは、果てなき復讐~」(日曜午後11時)がBS局で唯一TVerドラマランキング15位圏内に入る健闘を見せ、業界の話題になっている。BSドラマの底上げに乗り出した元TBSドラマ部長鈴木早苗プロデューサーが仕掛けたもので、趣里×深川麻衣が極限の愛憎劇に挑んでいる。「とにかく目立たなくちゃしょうがない」とハードな表現にもあえて踏み込むBSドラマの現在地を聞いた。

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「サワコ」は、井上ハヤオキ氏の電子コミックをドラマ化。高校時代の放火事件に端を発する関係者の不審死と、サワコ(趣里)とマチカ(深川)のドロドロの因縁が交錯していく“ラブホラーサスペス”だ。人間関係を侵食し、破壊していくサワコの恐怖にいよいよマチカが反撃。略奪、復讐、支配欲をむき出しにした女性キャラの一騎打ちが加速している。

-高校時代の関係性をベースに再会した今、という「サワコ」の設計は、今期話題のラブストーリー「silent」(フジテレビ)と重なりますが、こちらはドロドロの愛憎劇。“逆サイレント”の妙味がタイムリーだなと感じます。

人間関係を破壊していくサワコは怖いですが、本質はピュアなんですよね。人を好きになる思い、言葉でうまく伝えられない思い、好きな人の幸せを願う思いというのは、ある意味「silent」と一緒です(笑い)。特に大詰めとなる9話(27日)、10話(12月4日)は趣里さんと深川さんが「ここまでやるのか」というすごい芝居をしています。どっちが狂気なのか、最後まで分からない対決をぜひ見てほしいです。

-ここまでやるのかという意味では、サワコの性的シーンなどかなり攻めた描写も話題になりました。

地上波だともっと抑制した表現になりますが、BSなので、品性を保ちながらきちんと表現したかった。そのためには演技力のある役者さんが必要で、趣里さんに出演依頼したんです。「ヌードはありませんが、インティマシーシーン(性的シーン)はあります」とダメもとでお願いしたところ、受けてくださった。役者さん側に立って現場に助言するインティマシーコーディネーターにも入ってもらい、刺激的で美しいシーンになりました。

連続ドラマ「サワコ~それは、果てなき復讐~」(C)BS-TBS
連続ドラマ「サワコ~それは、果てなき復讐~」(C)BS-TBS

-鈴木さんといえば、昨年のTBS「リコカツ」(21年、主演北川景子)など明るい王道ドラマの印象がありますが、今回ドロドロの愛憎劇をプロデュースした動機は。

まだ認知度が低いBS-TBSなので、とにかく目立たなくちゃしょうがないと(笑い)。泣ける王道ドラマをBSでやっても見向きもされない。刺激的におもしろがってもらいたいという思いです。個人的には不得意ジャンルだったので、Netflixで韓国ドラマとか見ながらたくさん勉強しました(笑い)。味方だと思った人が敵だったり、重要人物だと思った人がいきなり死んでしまったり。お客さんをうまく裏切るドラマを作るのは楽しいなと。

-実際、韓国ドラマが世界を席巻して久しいですよね。そちらにお客さんをとられてしまう悔しさはありませんか。

ありますね。私もつい見ちゃう1人ですし(笑い)。資金力の差もあるし、育ててきた脚本家の力の差も感じます。でも、だからこそBSの出番とも言える。制作費が少ないから話の中身で勝負するという本来あるべき姿になっているとも思いますし、地上波ほど視聴率の呪縛や事務所行政にさらされていないので、自由度が高いのは大きな強みです。

-配信時代の到来も、BS局には大きな追い風ですね。TVerなど動画配信サービスのプラットホームに載ってしまえば、受け手にとっては地上波もBSも横並びなので。

またとない時代が来たと思っています。「サワコ」もドラマランキングの15位くらいに入っていて、現場の士気も高い。配信でどれだけ稼げるのかという時代に、BS局にとってもドラマコンテンツはますます重要になっています。

木曜ドラマ23「帰らないおじさん」(C)BS-TBS
木曜ドラマ23「帰らないおじさん」(C)BS-TBS

-そのために鈴木さんが昨年からBS-TBSに来て若手プロデューサーの育成に乗り出したわけですが、実際来てみて現場はどうですか。

ドラマ用語でTBSといえば「タイト・バスト・ショット」だよ、ということから教える感じですが(笑い)、「サワコ」の有我健、「帰らないおじさん」(木曜午後11時)の守澤崇など、若手プロデューサーの熱気に触れるのは楽しいですね。プロデューサーは、脚本家や監督など才能のある人を集めて設計図を書き、お店を最初に開いて最後までいる人。むきになってやるに値する素晴らしい仕事なのだと伝えていきたいです。

-若者をターゲットにした「サワコ」の一方で、光石研、高橋克実、橋本じゅんの「帰らないおじさん」はいかにもシニアシフトのBSらしいというか。

意外にも「帰らないおじさん」は若い人に人気なんですよ。「おじキュン」ってハッシュタグをつけてSNSで話題にしてくれたり。おじさんたちが徹底してかわいいですからね。TVerの視聴者層を見ても、女性が圧倒的に多いです。「ラストシーンの詩が泣ける」とか。

-男性3人組で最後に縦書きの詩。あれ、完全に昭和の「俺たちの旅」ですよね(笑い)。

そうです(笑い)。あのテイストをまねしたい、若い人には新鮮なんじゃないかなと。「俺たちの旅」と違って、こちらはおじさん3人が会社帰りに子どものころの遊びをして、最後にちょっとした郷愁もあります、というだけの話ですが(笑い)。こういう企画を地上波で出しても通らないので、これもBSならではの自由度だと思います。

-自由度と伸びしろというのは、将来性を感じるワードでもあります。

そうですね。マイナーなメディアなので、のし上がっていく過程を楽しみたいです。ドラマを入り口に認知度を上げて、BS局全体が盛り上がるといいなと思っています。

木曜ドラマ23「帰らないおじさん」(C)BS-TBS
木曜ドラマ23「帰らないおじさん」(C)BS-TBS

◆「サワコ~それは、果てなき復讐~」(BS-TBS、日曜午後11時) 20日放送の8話は、マチカ(深川麻衣)のキャバクラに記者が現れたことでサワコ(趣里)の過去が次第に明らかになり、事態が急展開を迎える。

◆「帰らないおじさん」(BS-TBS、木曜午後11時) 西村マリコの原作マンガをドラマ化。光石研、高橋克実、橋本じゅんがアフター定時にアナログな遊びにいそしむ。17日放送の7話はイカゲームのオマージュの「だるまさんがころんだ」が登場。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)