尾上松也(38)率いる話題の新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」(新橋演舞場)を見てきた。刀剣をテーマにした原作オンラインゲームと、刀剣にまつわる演目も多い歌舞伎は相性抜群。撮影OKのカーテンコールなど異例の挑戦もはまり、歌舞伎ファン、原作ファンが混在する客席を大喜びさせていた。
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「刀剣乱舞」知らない歌舞伎ファンと、歌舞伎を見たことない原作ファン。それぞれの不安は、幕が上がる前に吹き飛んでいた。
案内人2人が前説を行い、刀剣男士とは、刀剣に宿る付喪神(つくもがみ)の姿であること、彼らを動かす主(プレーヤー)を「審神者(さにわ)」と呼ぶこと、の2点を楽しく解説。「皆さまが審神者さまでございます」のひと言で、客席全体がこれから起こることの当事者なのだという一体感に包まれる。歌舞伎演出の豆知識も効いていて、一人残らず楽しませるという初演出、尾上松也の自信とまごころがずっしり伝わってくる。
物語はオリジナル脚本。歴史改変をもくろむ勢力と戦うため、室町時代後期、十三代足利義輝の治世に送られた刀剣男士たちの奮闘を描く。「刀剣乱舞」の顔である三日月宗近を演じる松也、小狐丸と足利義輝の2役を演じる尾上右近など、若手の花形役者がそろっているのも勢いがある。
室町時代らしいきらびやかな和装は歌舞伎の最も得意とするとろであり、立ち回りと、華やかな踊りは「刀剣乱舞」のタイトルそのもの。これまで「ワンピース」「風の谷のナウシカ」「ファイナルファンタジー」などさまざまなアニメ、ゲームを題材に、何でもできちゃう底力を見せつけてきた歌舞伎だけれど、「刀剣乱舞」の親和性はずば抜けと感じる。
客席にまで賊が攻めてくるような臨場感や、「白浪五人男」のように刀剣男士が次々と名乗っていく高揚感、戦闘を表現する拍子木のバタバタ鳴る音、早変わり、義太夫、花道やセリを使ったスペクタクル、琵琶の独奏など、歌舞伎にしかできない離れ業が隅々にある。「『刀剣乱舞』を歌舞伎がやるとこうなります」の世界観が楽しいのだ。
本編終了後、歌舞伎にはないカーテンコールを採用したのも伝統を打ち破る挑戦で、どこか2・5次元演劇のような新しさを感じる。このカーテンコールは撮影もOKで、松也や尾上右近ら花形役者が花道の後方まで来て手を振ってくれたり、「SNSでの拡散をお願いします」というボードを掲げてピースしたりと、とにかくハッピー。原作ファンも歌舞伎ファンも、すっかり「審神者さま」としてひとつになっているのもすてきな光景だった。
終演後、劇場の前は巨大ポスターの前で自撮りする刀剣女子たちで鈴なり。そんなグループが場所を譲り合ううち「一緒に撮っちゃいましょうか」みたいな流れになって、最終的に30人くらいが自撮り棒で1枚の写真に納まっていてほっこり。送り手のパワーも、受け手のパワーも、いろいろ痛快だった。
東京・新橋演舞場で27日まで。
【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)