その悲しみは三回忌、七回忌と、時を経て力になり、その人たちは思う人の中で生き続ける。

 「ただ、何て言うか、別離が重なってくると、そこの対処の仕方が、だんだんとできてきてね。本当に死んだのねって言う気持ちよりも、あっ、あの子の事に関しては知らんぷりしとこうっていうような。で、それが実は、私にはうまくできたんでね。そりゃまあ最初の1年間くらいはそういう事はできないけども。ただ、10人の人に十色の別れ、10の形があるから。人と別離したり、もう二度と会えないような事になった時に、その人の事が、思い出したから思い出されるんじゃなくて、何かの拍子に、いたずらみたいに、それは来るんですね。それは、赤ちゃんを亡くした人が、デパートの玩具売り場なんかに絶対行かないようにしていても、角を曲がったら小さなおもちゃ屋さんがあったりするというね、そういうような事が人生なんですよ。本当にむごいなあって思う事がある。そこを何か、顔や目をそむけて走っていってもいいけども、そこを耐えなきゃだめなんだよね。だからそういう事から、別れとかそういう事を非常に大事にしてたら、そりゃあ付き合った人を首しめて殺すとか、そういう事はなくなるよ。うん」

 悲しみに耐えることで、人間は成長できる。

 「さらに言うとねえ、今ずっと別離のこと、別れの事を言ったけども、実はもっと大切なものがあるんじゃないかっていう事に気がつくのは、その後で。もしも出会えてなかったら、どんな人生だったんだって考えると、出会えた事が全てだったと。別れは迎えたけども、その出会えた事にやっぱり感謝すべきだろうと。そういうところにもっていくと、慈しみって言うかね。人間に対する愛情がさらに深まるっていうかね。だから、別離というのはね、ひとつは、本人は苦しい切ないんだけど、それを越えた時に、以前よりも、人に対する愛情が深まっているって言う事は、もう確かだと思うね」

(おわり)