伊集院さんの妻の女優篠ひろ子は、もう10年くらい芸能活動をしていない。故郷の仙台の家で、東京で仕事をこなす伊集院氏を待っている。

 「父親の看病で帰ったんですけども、さっとやめましたねえ。私は、ちょっと驚きましたけどもねえ。まあ鮮やかに、お辞めになりましたなあ。私としては、働いてもらって楽をしようと思ってたんだけど(笑い)。『お前は偉い。今ね、直木賞もらってねえ、今だったら、若い女いくらでも来るのに、お前は着実な方を選んだって。あれは貯金持ってる』って言われたんです。いやそうじゃありませんよって(笑い)。そしたら、篠さんやめるって言うんで、驚きましたね、あの、ぎんぎらぎん(近藤真彦『ギンギラギンにさりげなく』)とかね、1曲書けば2億円くらい入って来るわけだから。そういう金の印税とかね、今までの稼いできたものを、事務所から通帳をみせられるとね…。『えっ!27万しか持ってないのこの人?』っていうのがあって。もう、これずうっと、10年前から変わんないんですよ、と(笑い)」

 豪快に稼いで、豪快に使った。

 「飲むか…まあギャンブルするか何か…って。で、それで、私冗談でねえ、再婚をした時に結構高い部屋代を払っていたから『部屋代もったいないと思いませんか』って言われたから、『じゃあ、株でも売るか』って言ったらね、『えっ? やっぱりそうなの。私はおかしいと思ったのよ、27万って、あなたが生きてるって事自体が怪しいと思ったのよ』って。それで、うそだって言えなくなっちゃって。ああ、これ冗談だって言えなくなって。それで『お家買った方がいいんじゃないですか』って言うから…それはうそだって言うまで、時間かかったの(笑い)」

 伊集院さんは85年に前妻の女優夏目雅子さんを白血病で亡くしている。長い間、夏目さんについて書くことを封印していたが、11年の東日本大震災をきっかっけに、篠さんに断って夏目さんのことを書いた。

 「あんまり雅子さんの事は、しょっちゅう書けるほど…やっぱり書けば、揺さぶられるからね、こちらが。それが、たとえ30何年前の事でも。だからなるだけ、必要だった時にしか書かないんだけども、あれほど大衆から支持をされた女優さんだから、まあ、変な事は書けないしねえ」

 先月の4日には年上の友人であったグラフィックデザイナーの長友啓典さんを亡くした。77歳だった。

 「これは大変な事なんですけどもね。これはもう、30年ずっと、女房代わりではないけども、飲み続けた人だからねえ。お酒もゴルフも、みんな一緒でしたねえ。まあ、いろいろ学びましたね。だから死んだという事、もういないんだって事に関しては、まだ実感がね。これがゴルフに行ったりとかね、そういう時に出るんですね。誰もいなくなった時に、ぱっと風の中からあれっ? と思って。あれ、今ちょっと雅子ちゃんの声に似てた…っていうね。そういう時があるんですよ。その時に、何かやっぱり、がくぜんとするというか。そういう事が長友さんの事に関してはこれから何度か起こるでしょうね」