2021年のNHK大河ドラマが日本資本主義の父と称される渋沢栄一を題材とする「青天を衝け」となったことが先日、同局から発表されました。この題材はかなり意外でした。理由は2つあります。

1つは幕末や近現代を扱うと、戦国時代を題材とした作品と比べて視聴率が厳しくなる可能性があること。現在、放送中の「いだてん」も近現代。大河ドラマのワースト記録を自ら何度も更新しています。視聴者には複雑で分かりづらい時代、あるいはそういう意識があるからと思われます。NHKのチーフ・プロデューサー(CP)は脚本家の大森美香さんの得意な時代とし、「マーケティングの発想で作ったら2回連続で戦国の方があたるかもしれないが、国際情勢の変革の時期を描きたいと思った」と説明しました。また「いい物を作るしかない」とも。CPの覚悟を感じました。作りたい物を一生懸命に作り、いい物にという覚悟に期待したいと思います。

もう1つ意外だったことは、放送される2021年は11年の東日本大震災から10年という節目の年。おまけに、この大河ドラマのCPは岩手を舞台にした連続テレビ小説「あまちゃん」も担当した人物。2021年は東北を元気づける題材を選ぶのでは、と予想していました。震災後10年とCPに話すと、渋沢栄一が関東大震災で、当時の復興にかけた思いを話してくれました。ただ、そこを描くかは未定としていましたが、被災地の力となる何かを描いてくれることを期待したいと思います。

会見では渋沢栄一はドラマチックな要素がたくさんある人物という声がありました。ただ、多くの視聴者は1年間で描かれる、どことどこをドラマチックな場面、あるいはヤマ場と期待し、楽しみにすればいいのかよく分からないと思います。まずは、渋沢が生きた時代の分かりにくさをいかに解消する描き方をするかがカギ。あとは視聴者に期待すべき注目ポイントをいかに事前に提示してテレビの前に座ってもらうか。戦国時代をテーマにした作品に比べ、制作陣には課題が多くなりますが、健闘を期待したいと思います。【中野由喜】