屋良朝幸(36)に話を聞く機会があった。俳優、ダンサーとして舞台を主戦場に活動しており、1年に4作品ほどをこなすそのスケジュールは過密だ。

役を深く掘り下げることができないまま稽古が始まることも、かつてはあったという。「時間に追われてバババッって形作って、本番バーンってやっちゃうっていう。そのスピード感は武器になるんですけど、でもそれが弱点だったりして」と本人にも葛藤があったようだ。

岸谷五朗が演出を務めた13年初演の舞台「ソング・ライターズ」が転機になったという。他の俳優が役を完全に落とし込もうとするのに対し、「このせりふ、イマイチふに落ちないけど言えちゃう自分がいた。そこを五朗さんが見抜いてくれて、思い切り突っ込まれた」と振り返る。

「その通りだし、安易だった」と落ち込んだが、それ以降演技へのアプローチを変えた。台本を繰り返し読み、キャラクターの背景を自分なりに想像し肉付けする。「読解力がないんですよ、ホントに。1回本(台本)を読んでもやっぱり分からない。分かんないから、すごい遠回りするんです。でもそのやり方が一番性に合っていると思っていて」。自分には「お芝居のセンスがない」とも言い、「そういうところを1個ずつ作っていかないと、できない人間。その作業はちょっと楽しくなってきましたね」と話す。

ダンスの技術はジャニーズ屈指で、18年からは音楽とダンスを融合させたライブ「THE YOUNG LOVE DISCOTHEQUE」を始動させた。総合プロデューサーを務め、演者とスタッフの二足のわらじをこなす。「『アーティストの屋良朝幸』っていうのを初めて出せた。自分の中では、ここが居場所だなって思えたんですよ」と手応えも語った。

好きなことを追求できた充実感の半面、ゼロから作り上げることの大変さも感じており「こんなめんどくさいこと、誰もやらないでしょ? って自分で思います」と苦笑する。なぜできるのかと聞くと「俺はそれが本当に好きだからできる。好きなことを突き詰めたいっていう、言ってしまえば、タレントとしてはすげーめんどくさいと思われる人間だと思うんですよね。でも、それが好きっていう気持ち1本でここまで来たので」と気持ちのいい言葉が返ってきた。

今後の展望については「アーティストとしての自分を、届けられる時間をもっと作れたら」と希望する。「それって結構な方向転換なので、すぐできるわけじゃないですけど。そこに向かって今から必死にもがかなきゃいけない」と静かな闘志が見えた。

いわゆる「デビュー組」とは違う道であることを自覚しながら、自分の道を突き進む姿はすがすがしい。実直に仕事に向き合う姿勢に、同世代として背筋が伸びる思いがした。【遠藤尚子】