女優で作家の中江有里(47)が27日、28年ぶりとなるサードアルバム「Port de voix」(ポールドヴォア)を発売した。中江のアルバムは93年5月発売の「Deux couleurs(ドゥクルル)」以来となる。

この日、都内で日刊スポーツの取材に応じた中江は「28年前は1週間のうち4日はドラマ撮影、2日はレコーディング、1日は取材と、休みがない忙しい毎日でした。歌に対して、自分の表現手段の1つとして取り組みたいと思っていたのですが、どうやって歌えばいいか悩んでいる間にどんどん進んで、不完全燃焼のまま終わってしまっていました。それが今回、残っていた小さな思いがあって、種火みたいに保っていたんだなと思います」と笑顔を見せた。

作詞家松井五郎氏(63)のプロデュースで全7曲収録。<1>92年11月発売「風の姿」<2>91年10月発売のデビュー曲「花をください」<3>「プレゼント」は玉置浩二のシングルのカバーで昨年12月にリリース<4>新曲「まわり道」<5>新曲「Yellow Lily」<6>Chageの「永い一日」をカバー<7>「いつも」は昨年10月に27年ぶりの新曲としてリリース。新型コロナウイルス禍の中で、レコーディングを進めた。

<1>「風の姿」は中島みゆき(68)の作詞・作曲。4枚目のシングルのセルフカバーだ。92年の日本テレビ系主演ドラマ「綺麗になりたい」の挿入歌とNTTコードレスルームテレホンのCMソングに起用された。

<歌詞>そんな人だと思わなかった、と言われて

と歌い出す。

「歌っていた当時は18歳。難しい歌ですねぇ(笑い)。歌詞を読み返すと、よく歌っていたなと思えるくらい、非常に深い。当時、この歌詞に共感していました。芸能界に入って数年たっていて仕事は順調だったんですが、自分とは全く違う役柄を自分だと思われてしまう、取材で与える印象と自分自身とのギャップがありました。いまだに芸能の仕事が自分に向いているとは思わないんです。表現することは好きなんですが、自分自身をアピールするより、作品として作り上げたものを出したいんです。一方で、自分の見られ方が、自分が思うのと違っていて、なんか見抜かれているような気がしていました」

中島とは92年の初主演映画「奇跡の山 さよなら、名犬平治」の主題歌「誕生」を提供されていたことで、曲を依頼した。

「私の世界を、こういう風に書いてくれたんだと不思議な感じがしました。(中島の)歌の世界をずっと知っていて、お会いしたらすごく気さくな人だった。よくお笑いになる方でした」

<2>「花をください」は飛鳥涼(現ASKA=62)の作詞・作曲。プロデュースの松井氏は81年にCHAGE and ASKAのアルバム「熱風」の表題曲を作詞して以来の飛鳥の盟友だ。

「まさにデビュー曲。私がCHAGE and ASKAの『PRIDE』という曲が好きで、その曲にすごく支えられていた時期があったんです。その曲の作詞・作曲の飛鳥さんに頼んで書いていただいた、奇跡のような出来事でした。レコーディングの時にフラッとスタジオにいらして、すごく緊張しました。昨年、コロナで自粛期間中に歌ってYouTubeにアップしたら、ツイッターで『こうやって、また歌うのはいいね』ってつぶやいてくれました。17歳の時の歌で、今47歳。30年もたっている(笑い)。ものすごく可憐(かれん)な曲で、どう歌ったらいいのかと思ったけど、案外自然に歌えました」

<3>「プレゼント」は玉置浩二(62)の05年のシングルをカバー。松井氏が作詞で、玉置が作曲。“日本で一番歌がうまい歌手”と言われる玉置の歌のカバーを松井氏が提案、昨年12月に配信シングルとして発売した。

「すごく美しい歌。コロナの時代にメッセージを込めた気がします。男性の歌をカバーするのは、キーも違うので、その時点であまり原曲のことを気にしないですみます。意識してもまねられないので、自分自身が、どうこの曲を解釈するかという意識で取り組みました」

<4>「まわり道」は松井氏が作詞で、作曲はシンガー・ソングライター森恵(35)の新曲。

<歌詞>まわり道が一番近い と最後に歌う。

「森さんが初めて他人に提供してくれた曲。私にとって、すごく等身大の曲。私も結構、まわり道ですから(笑い)。なにしろ28年ぶりですから」

<5>「Yellow Lily」は松井氏が作詞で、作曲は「ハナミズキ」などで知られるマシコタツロウ氏(42)の新曲。

「マシコさんは私のことを学生時代から応援してくれていて、松井さんに『実は中江さんのファンで』って伝わって、松井さんが依頼しました。詞先でジャズっぽい曲です」

<6>「永い一日」は松井氏の作詞で、作曲のChage(63)が14年に発売したシングルのカバー。

「長年付き添ったパートナーのことを歌う曲。Chageさんが歌うと男性の曲なんですけど、『僕と君で』という一人称でも私が歌うと、朗読的な、物語を俯瞰(ふかん)して歌うような要素が出てくるんです。アルバムに飛鳥(ASKA)さんとChageさんが入っているのは、松井さんの思いですね」

<7>「いつも」は松井氏の作詞、松本俊明氏の作曲。昨年10月に27年ぶりの新曲として配信リリース。母への思いを歌っている。昨年8月には、1年間の闘病の末に自身の母親を亡くした。

「母が亡くなる前にもらった曲ですが、病気になって覚悟していました。母の亡くなる前後で、歌うことが、自分の感情をつなぎとめてくれました。歌う時は泣いちゃいけないという思いが、支えてくれました」

演じること、書くことを続けてきて、昨年歌手活動を27年ぶりに再開した。「四半世紀ぶり以上に歌う時、全く前とは同じように歌えませんでした。年も重ねているし、声も変わっている。昔の歌い方をしようとしてもできないし、通用しない。結局、戻れないんですから、進化するしかない(笑い)。『風の姿』や『花をください』を歌う時に比較するのが、かつての自分っていうのが、一番手ごわかったんですけどね」

昨年2月にデビュー32年目にして初めてのライブを行った。念願のアルバム発売を果たして、次の目標は再びライブを開くことだ。「もちろん予定していたけど、今の時期なので延期しました。お芝居をしたり、物を書いてきました。お芝居は泣いたり、笑ったりする。物を書く時は、笑おうが泣こうが関係ない。歌はクールに表現しながら、そこに自分の感情を乗せて行く。そういうことに今回、気が付きました」

新たなスタートが加速し始めた。

◆中江有里(なかえ・ゆり)1973年(昭48)12月26日生まれ、大阪府出身。89年JR東海のCMでデビュー。90年のTBS系「なかよし」で女優デビュー。91年にはシングル「花をください」で歌手デビュー。92年の日本テレビ系「綺麗になりたい」で、連続ドラマ初主演を果たす。95年のNHK連続テレビ小説「走らんか!」ではヒロイン。13年に法大通信教育部文学部日本学科を卒業。