15歳の俳優和田庵が、映画「茜色に焼かれる」(21日公開)で、尾野真千子(39)演じる主人公の息子役に抜てきされた。国内外で評価される石井裕也監督(37)に一目ぼれされて射止めたのは、7年前に理不尽な事故で父を失い、いじめを受けながらも母1人子1人で生きる中学生という難役。1年半のカナダ留学を経て芸能活動を再開した和田が、目指す本格俳優の道に1歩を踏み出す。

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和田は、初対面の石井監督へのあいさつで、チャンスをつかんだ。4月27日の完成報告会で、同監督は「『こんにちは、和田庵です』と言う、ひと言で決めた。独特の…聞いていても泣きそうになる、文字で起こしても伝わらない誠実さが(声にある)」とオーディションの内幕を明かした。

8歳で芸能界入りし、17年に新垣結衣の主演映画「ミックス。」で俳優デビューすると、翌18年1月期のフジテレビ系連ドラ「隣の家族は青く見える」にも出演。“イケメン子役”と評判を呼び、期待されていた。その最中の同年末に「語学力と人間力を高めたい」と芸能活動を休業し、兄も留学していたカナダに渡った。現地の中学を卒業するつもりだったが、コロナ禍が深刻さを増したため20年7月に帰国。俳優業に積極的に取り組もうと思い、帰国直後に受けたのが「茜色に焼かれる」のオーディションだった。

大役をつかみ取った先の壁は、漢字だった。中学に入る段階で留学したため苦手だった上、オーディションを受けた帰国直後には、知らない言葉も多かった。セリフも多く、知らない言葉を調べるところから始めた。役作りも「年下ですけど、自分が経験してこなかったことを経験している子。台本を何回も読み込んで想像しても、最初は漠然としていた」と苦悩した。

救いは“母”尾野だった。母子で自転車を2人乗りするシーンでは「本当の母子のように接してくださって。久しぶりの現場で、すごい緊張していたのに自然に演技が出来た」という。その中、抱き寄せられた場面は「尾野さんが気持ちを上げてこられて、僕もつられた」と渾身(こんしん)のシーンとなった。尾野からは、一流のすごみも感じたという。「明るく現場の空気を和ませる方なのに、カメラが回った瞬間、人が変わったようにお芝居された。僕は、まだそこまでいけていない」。

「何物にも代えられない経験をした」からこそ、覚悟を決めた。「野球が得意な人が高校に推薦で入るのと同じように、僕にとって得意なことは表現であり、専門職は俳優。もっと、うまくなって『あの人の演技、うまいなぁ』と言ってもらえる俳優になりたい」。和田は俳優として、生きていく。【村上幸将】

◆和田庵(わだ・いおり)2005年(平17)8月22日、東京生まれ。幼い頃にテレビを見て芸能界に興味を持ち、親の勧めで所属事務所レプロエンタテインメントの育成機関のオーディションを受けて、8歳で芸能界入り。18年にHBOアジア製作のホラーオムニバス「フォークロア」の1つとして斎藤工が監督した「フォークロア TATAMI」にも出演。現在、都内の高校に通う1年生。目標とする俳優は仲野太賀。