デビュー52年目となる歌手南こうせつ(72)が、2年半ぶりとなるアルバム「夜明けの風」を9月8日にリリースする。こうせつにもコロナ禍が直撃し、コンサートは軒並み中止&延期となった。「長い歌手人生でこんなに休んだのは初めてです」。それでも、アーティストとしてこのコロナ禍の中でのメッセージソング「夜明けの風」を制作した。

「夜明けが来る、なんて、何の科学的根拠はないんです。天気だと、低気圧の後は高気圧が来るという程度ですが、歴史を振り返れば、戦いが終われば平和は来る。夜明けの風が吹くのだから、見方を変えれば、共有すれば、強く生きられる気がした。そんな思いをこめて曲を作りました」。斎藤ネコのストリングスが心にしみる楽曲に仕上がっている。

コロナ禍は、こうせつの活動も制御した。「ありがたいことに、若いときにヒット曲に恵まれ、ファンに支えられて、毎年コンサートを開催してきました。昨年の春ごろは、半年も過ぎれば収まるかと思っていました。それがね。1年延期されたオリンピックまで、こんな状態になるなんて。でも、休んだおかげで、南こうせつと、しっかりと向き合うことができました」。

73年、かぐや姫のシングル「神田川」が大ヒット。深夜放送のリクエストで支持されシングルカットされた経緯も含め、ファンを巻き込んだヒット曲だった。以来、こうせつは日本の音楽シーンの第一線に居続ける。

それでも「現役の歌手なんだけど、今のチャートには入らない。CDが売れるのを目指すけど、それでも人気は落ちていく。これまで満杯のホールが半分に、地方にいくとさらに半分に。もう、地方ではできませんと言われる。あー、残酷なんだなと思う」。

スポーツ選手は現役を引退するが、歌手は生涯現役だ。それだけに、自身のポジションを納得するのに、何十年もかかったという。それも、還暦を過ぎてからだったという。

「でもね。そんな中でも、歌の世界に自分はいる。ラッキーなことに今も歌えている。『神田川』はファンの方がヒットさせたと思っているので、今でもコンサートに来てくれるのもラッキーです。いつか、ファンの方も足腰が弱くなって、来られなくなったらどうしようっていったら、(武田)鉄矢が、そうなったら、こっちからホームに慰問に行くんだよって。おー、そうか。そりゃそうだねって」。

そんな心情を表しているのが、同アルバムに入っている「歌うたいのブルース」だ。こうせつのミュージシャン人生を曲にしており、<歌詞>拍手の嵐 浴びた日もある、などというフレーズもある。

アルバムには、五木ひろしに提供した「ぽつんとひとりきり」もセルフカバーしている。2人は古くからの知り合いで、演歌とフォークとジャンルは違えど、70年には日本テレビ系のオーディション番組「全日本歌謡選手権」に挑んでいた。その時、デビュー曲となる「よこはまたそがれ」を、五木が同番組の会場の洗面所で弾き語りで歌うのを聴いたこうせつが「これは、絶対に1位なるよ」と断言したという逸話が有名だ。

「五木さんとは不思議な縁でね。コロナ禍の中、音楽番組で一緒になり、曲を書くよっていったんだ。メロディーを聴いてもらい、作詞を誰にしようかと考えた時に、同時に浮かんだのが松井五郎だった。演歌は、なんていうか、こびを売るような世界は好きじゃないんだけど、世界の音楽では表現できない、レベルの高い、いい楽曲もあると思う。北島三郎さんの『函館の人』とか、美空ひばりさんの『悲しき口笛』とか。五木さんも、紋付きはかまではなく、都会のスーツが似合う歌手でしょ。そういう意味では、演歌もプレスリーやエルトン・ジョンと同じ仲にはあると思います」。

こうせつは「最後はライブ。リモートもいいけど、やはり、お客さんが入った会場で、同じ空気を共有しながら向かい合いたいですね。それがいつになるのかわからないけど、ファンの方々と一緒に歌いたい。それが僕のライブ観です」と話した。【竹村章】