東京国際映画祭が30日、開幕した。開会式に先立って同日午前、東京・TOHOシネマズシャンテで、今年から新設された「Amazon Prime Videoテイクワン賞」トークイベントが行われ、審査委員長の行定勲監督(53)が登壇。賞の意義や自身の新作の製作状況について赤裸々に語った。

Amazon Prime Videoテイクワン賞は、東京国際映画祭が、さらなる才能の発掘を目指してAmazonプライムビデオの協賛を得て新設したもの。これまで商業映画の監督、脚本、プロデューサーを担当したことがない日本在住の映画作家の15分以内の短編作品が対象で、応募期間は約2カ月間と短かったにも関わらず223作品の応募があった。

受賞者には、賞金100万円とAmazonスタジオでの長編映画製作を模索する機会が提供される。行定監督は、そのことについて「その時点で(映画製作のスタートラインは)僕と一緒なので。僕は提案して、まだ進んでいないですから。僕より、先に始まりますよね」と、Amazonプライムビデオと新たな企画について話をしていると明かした。その上で審査委員長の立場として、ファイナリスト9作品について「僕は1回、見ていますが…既にライバルですね。劇場公開されていなければ良い…既に仕事がプロなんですね。これを撮りたいという信念に基づいて取っている。クライアントがついているの(商業映画)とは違う、純度の高い作品性があるし。嫉妬する。僕は作れない。若手の才能の瞬間に立ち会えるのがうれしい」と作品性を高く評価した。

Amazonプライムビデオの児玉隆志プライム・ビデオジャパンカントリーマネジャーは「出会いが欲しい。日本で始めて6年経ちますが、作品が少ない。まず、どこと仕事したいかという時に、最初に仕事したいと思える存在になりたい」と、日本国内で新作を製作するために、クリエイターと出会いたいというのが東京国際映画祭とタッグを組んだ理由の1つだと語った。その上で「行定さんのような方とパートナーシップを組んでドンドンやりたい。でも大御所だけでは寂しい。新しい才能と出会いたい。オリジナルの映画も作っていきたいと思いますので、どのような企画か一緒に開発し、日本、世界に求められるならば実際に映画にする挑戦をして頂きたい」とも語った。

行定監督とAmazonプライムビデオとは縁がある。コロナ禍に陥った20年4月7日に全国7都府県に最初の緊急事態宣言が発出されたことを受け、公開6日前の同11日に延期が発表された映画「劇場」の公開が翌21年に延びることが内々で決まり、苦悩していた。その中、Amazonから話を持ちかけられたことを受けて、20年7月17日から全世界配信に踏み切った。一方でAmazonに映画館での公開も認めてもらい、単館系20館で劇場公開も行った。その一連の動きは、映画メディアのみならず一般紙も追いかけ、20年の映画界の一大トピックスとなった。

行定監督は、東京国際映画祭の市山尚三プログラミング・ディレクターから、Amazonプライムビデオとの新作製作の進行状況について聞かれると「提案しているんだけど、なかなか、まだ実現にたどり着いていない。興味は頂いているけど、追いついていない。3つくらいあります。映画スタイルです」と語った。

東京国際映画祭では今年から「TIFFシリーズ」部門を新設し、テレビ、インターネット配信などを目的に制作されたシリーズものの秀作を、日本国内での公開に先駆けてスクリーンで上映する。その一環として、HBOアジアのホラーシリーズ「フォークロア」シーズン2で、歌手の松田聖子が初監督した「あの風が吹いた日」を上映する。市山氏がそのことを踏まえ、ドラマや配信のシリーズものの制作を行う可能性があるかと問うと、行定監督は「シリーズものは、Amazonさんじゃない、別のところとやっていたんですけど…多分、なくなったんですね」と、他の配信プラットフォームとシリーズものの企画を進めていたことを明かした。

その内容について、行定監督は「ずっと書いている…へんてこりんなものを。まだ、Amazonさんには提案していないです。今までにない感じ。本当にやりたい作品。実現したいんだけど、お金がかかるんじゃない? と言われそう」と脚本執筆、企画開発は継続していると明かした。児玉氏が「テレビシリーズにしても、米国のように何十話というのは無理」と苦笑いすると、行定監督は「じゃ、僕のダメですね。(脚本が)3シリーズに入っている」と笑った。

会場には、20年の日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で助演女優賞を受賞した、渡辺真起子(53)も審査員として姿を見せた。【村上幸将】