第94回米アカデミー賞で、邦画では09年の「おくりびと」(滝田洋二郎監督)以来13年ぶりに国際長編映画賞を獲得した、映画「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督(43)、主演の西島秀俊(50)山本晃久プロデューサー(41)が5日、都内の日本記者クラブで会見を行った。

会見で

「アカデミー賞に到達し、経験したものを、今後の作品作り、作品選び、役作りにどのように生かし、どのような作品を作っていきたいですか?」

「日本人が、なかなか行くことが出来ない舞台に足を踏み入れ、感じたものを、この先、日本人がアカデミー賞の舞台に、もっと足を運ぶことが出来るために、日本映画界に、どう還元しますか?」

との質問が出た。

濱口監督は「アカデミー賞という舞台で感じたことは両面、ある。3週間、滞在して、いろいろな方にお会いした。本当にケタ外れな世界…自分の持っている尺度が通じないというか、予算規模が全く違う世界で仕事している。共通言語を持っているのだろうか? という」と切り出した。その上で「予算のことを言うと、申し訳ないけれど…『えっ、そんな予算で映画、作れるの?』という感覚で向こうは話してくる。そう言われてしまうと、頑張って作っていますと言うしかない。全くスケールが違うのが1つ。段階的にでも自分のスケール感を調整しなければいけない」とステップアップの必要性を語った。

一方で「監督の方々と話していると、スピルバーグ監督もポール・トーマス・アンダーソン監督もそうですけど、パーソナルなものに根差して作っている。個人的に映画から受けた喜び、人生で味わった傷を、どう作品に昇華するかを自分自身から考えている印象がある。その点は変わらない」と語った。そして「後輩たちに一体、どういう指針になるか分からないけれど、日本でやるってことを考えると、自分たちの個人的な。パーソナルな思いから出発するところは全く間違っていないし、作り続け、届け続けるおそらく…むしろ唯一の方法なのではないか?」と訴えた。その上で「どの程度の予算を加えるかは今後の業界の推移とも関わる」と付け加えた。

西島は「今回の僕の演技は、かなり説明を排除した。観客の皆さんと共同作業で作り上げたような演技だと思っています。こうやって米国、他の国で、たくさんの方に見ていただけたのは事実としてあり、それは希望であり素晴らしいこと。この作品に入る前に、自分が本当に信じている演技を見つめ直し、勇気を持ってやろうと決意した記憶があります。信じる演技をやるしかないという結論に達しています」と語った。

その上で「今、日本の若い俳優には僕より、はるかに素晴らしい才能のある俳優さんが、たくさんいる。皆さんが信じる演技を突き詰めれば、その先に…僕自身が信じられなかった場所に行けた。これからも、そういうことが起こると思う。体験したことは出来るだけ、若い俳優さんに会ったら伝えていこうと思う」と日本の後輩の俳優達に期待を寄せた。

さらに「僕…程度の俳優が(アカデミー賞授賞式に)行けたので。みんな若い俳優は素晴らしい才能を持っている。行く可能性は本当にあると思ってます。楽しみです」と今後の日本映画界に期待した。

濱口監督は、米国で日本映画への期待、関心はあると肌で感じたか? と聞かれると「これは、はっきりと言わなくてはいけないと思いますけれども、現代の日本映画に対する関心は基本的にないと思います」と即答。「素晴らしい日本映画はあったね、と語られることは、とてもたくさんありますけども、現代の日本映画が米国で知られているかというと、是枝さん(裕和監督)は別ですけれども注目されているとは言えない状況なんだなと実感しました」と語った。

一方で「『ドライブ・マイ・カー』を選んでいただいたみたいに、アジア映画全般に対する関心は、どうも高まっているらしいという感じは、現地の方からも聞いています」とも語った。自身は見ていないとしながらも、Netflixで話題となった韓国ドラマ「イカゲーム」のヒットも踏まえ「米国の観客の目線は今、アジアに何か面白いものがあるんじゃないだろうかという目線で探していると言っていました。それが日本に向かっているというわけではないと思うんですけども、観客の好奇心を貫くような作品が出てくるということを願っています。目線は向けられている…あとは本当に、その目線に応える作品が、あるかどうかということだと思います」と語った。