国籍も、居場所もない。ミャンマーで迫害を受ける少数派イスラム教徒のロヒンギャの幼い姉弟が、国境を越える逃避行を描いたロードムービーだ。安住の地を求める命がけの越境は、生き延びるための選択である。
物語の出発点はバングラデシュの難民キャンプ。5歳のシャフィと9歳の姉ソミーラは叔母とともに、叔父のいるマレーシアを目指し、キャンプを抜ける。待ち受けるのは苦難の連続で、密航船での飢えと乾き、人身売買ブローカーの脅威、手を差し伸べる市民との出会い…。越境の現実が生々しく描かれる。
大阪出身で、アジアを舞台に映画製作してきた藤元明緒監督の長編3作目。現実をそのままなぞるのではなく、観客の想像力をかき立てる「旅」として物語を組み立てた。食べること、眠ること、移動すること。当たり前の暮らしが成り立たない難民の現実を頭で理解するだけでなく、見ているうちに身に迫ってくる。
混乱の中で姉弟は離れ離れになる。実際にロヒンギャである2人の自然な演技は胸を打ち、引き裂かれていく恐怖と不安が観客にも迫る。たどり着く先は見えない。それでもかすかな光が見える。【松浦隆司】
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