「走れコウタロー」で知られる歌手の山本コウタローさん(本名・山本厚太郎)が4日に脳内出血で亡くなった。73歳だった。白鴎大名誉教授でもあった。

「走れコウタロー」は、コウタローさんが所属したフォークグループ、ソルティー・シュガーが1970年(昭45)7月5日に発表したコミックソングである。もともとは、いつも練習に遅刻するコウタローさんに向かって、メンバーが「遅いぞ。走れ、走れコウタロー」とはやし立てるフレーズだった。それをタイトルにしたのだ。

内容は競馬が題材だった。コウタローという競走馬がG1レースの日本ダービーに出走。スタートダッシュで遅れるが、奇跡的にトップに躍り出るというストーリー展開だ。

実は前年の69年1月24日、当時の美濃部亮吉都知事が政治公約としていた東京都主催の公営競技の廃止を通達。競輪、競馬、ボートレース(競艇)、オートレースから撤退した。主催権が都から市町村などに移り、すべてが廃止されたわけではないが、競輪のメッカとも呼ばれた後楽園競輪場などが廃止された。その跡は現在、東京ドームになっている。

「走れコウタロー」はそんな時代の中で発売されたのだ。歌の途中には、実況中継と美濃部都知事の記者会見のパロディーが挿入されている。

実況中継部分には複数の馬の名前が登場する。その中の「リンシャンカイホー」と「メンタンピンドラドラ」はマージャンの役。そして「コイコイ」は花札の競技名である。さらに美濃部都知事の記者会見のパロディーにも「大三元」というマージャンの役名が出て来る。これは「公営競技は廃止しても、賭けている人もいるマージャンや花札はどうしますか?」という風刺と言われた。単なるコミックソングではなく、フォークソンググループならではのメッセージが込められていたのである。

「走れコウタロー」が発売された70年には、「老人と子供のポルカ」(左卜全とひまわりキティーズ)というコミックソングもヒットした。当時、76歳だった俳優の左卜全さんが、劇団ひまわりの女の子5人と「ズビズバー」と歌って話題になった。同じ年に大ヒットした「黒ネコのタンゴ」が6歳の皆川おさむが歌っていたことから、「老人」でヒットをという意図で制作されたという。

ただこちらも単なるコミックソングではない。歌詞には「やめてケーレ ゲバゲバ」や「やめてケーレ ジコジコ」、さらに「やめてケーレ ストスト」と出て来る。「ゲバ」は暴力を意味するドイツ語で、内ゲバやゲバ棒としても使われるように、暴力的な学生運動を意味した。「ジコ」は交通事故、「スト」はストライキの意味だった。当時の社会問題で、それらの被害者は弱い立場の老人と子供である、という深いメッセージが込められた。

75年に大ヒットした「およげ!たいやきくん」(子門真人)は、単調な日常生活からの逃避を暗示した曲と言われた。子供番組から火がついたが、そのメッセージが大人の琴線にも触れ、450万枚を超える日本歌謡史上最大のヒットソングとなった。

99年の「だんご3兄弟」(速水けんたろう、茂森あゆみ)も子供番組から発信された。ジャンルは童謡だが、3兄弟のいずれかに、家庭や組織、社会での自分の存在を投影する大人にも共感を得て、約300万枚の大ヒットとなった。コミックソングだから、子供向けだからと侮ってはいけない。【笹森文彦】