ミュージシャンの原田喧太(52)出演の映画「さすらいのボンボンキャンディ」(サトウトシキ監督)のヒット記念舞台あいさつが31日、東京。渋谷のユーロスペースで行われた。

この日はハロウィーンで、最寄りの渋谷駅に仮装した集団が密集。劇場周辺にも、仮想の準備をする若者が複数、歩いていた。今作で映画初主演の影山祐子(37)が、観客に向かって「今日、渋谷に来るのは勇気がいた(必要だった)と思いますが、たくさん来ていただいて、ありがとうございます」と呼びかけた。原田も「皆さん、仮装しなくて大丈夫ですか?」とジョーク交じりで続いた。

「さすらいのボンボンキャンディ」は、村上春樹氏がDJを務めるTOKYO FMの人気番組「村上RADIO」(毎月最終日曜午後7時)のゼネラルプロデューサーで、作家の延江浩氏(64)の短編小説集「7カラーズ」(水曜社)収録の同名小説が原作。同氏の小説を映画化した96年の「アタシはジュース」を手掛けた、サトウトシキ監督(61)が15年前に原作と巡り合い、延江氏に映画科の希望を伝え、台本と企画の開発を進め、再び映画化した。

「さすらいのボンボンキャンディ」は、夫が海外出張中で日々、あてどなく街をさまよう34歳の仁絵(影山)と電車の運転士になる夢を諦めた48歳のマサル(原田)が出会い、互いに家族がありながら逢瀬(おうせ)を重ねる。その中、マサルが姿を消してしまい、仁絵はほかの男たちと寝ても心の空洞が埋まらず、マサルの影を求めて街をさすらう物語。

原田は、11年7月に亡くなった名優・原田芳雄さんの長男。父の遺作となった同年の映画「大鹿村騒動記」の原案の小説「いつか晴れるかな」の原作者・延江氏がサトウ監督に推薦したことで出演が決まった。延江氏は「お父さまの芳雄さんは、とんでもなくすごい方で。家に行くと、喧太に光が当たっているというか、孤高な感じがした。原田芳雄さんは『風来去』と言っていたけど、女がほれたところから去って行く、風のように来て去る男(車掌)を演じるなら、息子だと思った」と振り返った。

加えて、原田が演じた車掌のマサルという役どころは「ある意味、ずるくて、ある意味、純粋」という難解な役どころだった。その点でも、延江氏は「役者という汚れのない存在じゃないと」と、本業がギタリストの原田を推した。

ただ、原田が俳優として主要な役どころを演じたのは、01年の映画「infinity 波の上の甲虫」(高橋巖監督)が最後だった。その上、バイクに乗る役のため、免許を取る時間も含め製作期間がかかった。原田は「台本いただいて読んだ時、ものすごい難しい役柄だったのと、久しぶりの俳優の仕事…どこまで演じ切れるか不安があった」と振り返った。その上で「スケジュール的に全く空いてない。『出来ませんね』と言ったら、ずっと待ってくれた。ジリジリという、監督の牛歩作戦に気付いたらOKしていた。やって良かった」と笑みを浮かべた。

原田が演じたマサルの妻を演じた辻しのぶ(54)は、出演シーンは1シーンのみだったが、原田の印象を聞かれ「初めてで、ロッカーって怖い、どういう人なんだろう? と思ったら、会ってみたらキュート。ホッとした」と笑った。原田は「キュートなんです。俺」と強調した。

一方、編集にも時間がかかったという。影山演じる仁絵の叔父を演じた伊藤洋三郎(67)は「編集に3年、かかってたような映画。多分、出来ないだろうなと思って、たまに監督に2年に1回くらい、電話で『あれ、どうなったの?』って聞いたら『今ね、編集中』って。でも、こんなに記憶がある。すごく良い現場だったんだと思う」と笑みを浮かべた。