北野武監督(76)の6年ぶりの新作となる映画「首」(今秋公開)製作報告会見が15日、都内で行われた。初期の代表作として知られ、世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭ある視点部門に出品された93年「ソナチネ」と同時期に構想し30年、温めてきた企画だが、同監督は冒頭で「30年? 3週間くらい」と口走り、取材陣を笑わせた。

会見2日前の13日には、第76回カンヌ映画祭(5月16日開幕)のラインアップ発表で、同映画祭に21年に設立された部門「カンヌ・プレミア」に出品されることが決まった。日本人監督の実写映画の出品は初めて。北野監督は、最高賞パルムドールを競う、コンペティション部門での出品ではなかったことを踏まえつつ「カンヌに聞いたら、今回はコンペに当てはまらない、売れる映画ということで、プレミアという名前を別個につけたと言った。当たれば、ひともうけだなと、うれしい限り」と言い放った。

西島秀俊(52)が明智光秀、加瀬亮(48)が織田信長、中村獅童(50)が百姓の難波茂助役で北野組に初参加。浅野忠信(49)が秀吉の軍師・黒田官兵衛、大森南朋(51)が秀吉の弟・秀長を演じた。北野監督もビートたけしとして羽柴秀吉を演じた。キャスティングについては「脚本を書きながら、これはこの人と…」と振り返った。自ら出演するつもりはなかったが「出ないつもりだったら、スタッフが『出ないというのは、いかがか…』と。でも光秀はハゲ…横山ノックみたいな頭になるから、お笑いになる」とジョークを飛ばした。

ベネチア映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した03年「座頭市」以来、20年ぶりに時代劇を手がけた。構想段階で、黒澤明監督からも「北野君がこれを撮れば『七人の侍』と並ぶ傑作が生まれるはず」と期待されながら、30年もの長きにわたって温めてきた。19年12月には、北野監督が初の歴史長編小説として原作を書き下ろし、出版した。今回、時代劇を描いた理由について「男同士が絡み合うのは、NHKは避けているところがあるが親方・殿様に対し命をかけるのは、自分としては、そういう考え方。そこを描かないで時代劇を描くのは、おかしいと」と、男性同士の愛憎を描いたと語った。そして「戦国大名は悪いヤツ。一般の人が死んでも、何の関係もない。残酷さと生と死を背景に描き、男同士の愛ではないけど、死を前にした男の関係が描ければと」と続けた。

「首」は、天下統一を掲げる織田信長(加瀬亮)が毛利、武田、上杉の各軍勢と京都の寺社勢力と激闘を繰り広げる中、家臣の荒木村重(遠藤憲一)が反乱を起こし、姿を消す。信長は明智光秀(西島秀俊)羽柴秀吉(ビートたけし)ら家臣を集め、自らの跡目をエサに村重の捜索を命じる。秀吉は弟秀長(大森南朋)軍師の黒田官兵衛(浅野忠信)と策を練り、千利休(岸部一徳)の配下で元忍芸人・曽呂利新左衛門(木村祐一)に村重探索を命じる。秀吉は村重を利用し、主君の信長と光秀を陥れ天下を取ろうとたくらみ、新左衛門によって捕らえられた村重は光秀に引き渡されるが、光秀は殺すことが出来ず、城に囲う。

同じ頃、成り上がり者の秀吉に憧れ、村を飛び出した百姓の難波茂吉(中村獅童)と出会った新左衛門は、天下一の芸人になる目標を持つ自身と重ね、行動をともにする。その中、信長は村重の反乱の黒幕が徳川家康(小林薫)と考え、光秀に家康の暗殺を命じる。だが、秀吉は家康の暗殺を阻止することで、信長と光秀を対立させようともくろみ、新左衛門と茂吉が家康の暗殺を阻止。家康を排除したい信長は、京都・本能寺に茶会と称して家康をおびき寄せる計画を光秀に漏らすが、信長を討つ千載一遇のチャンスを得た光秀は、愛憎入り乱れた感情を抱きながらも、ついに信長の“首”を獲る決意を固める。一方、秀吉も家康を巻き込みながら天下取りのために奔走する。信長の跡目をめぐる、さまざまな欲望と策略が入り乱れ、血肉が飛び散る山崎の戦いから本能寺の変までをテーマに、北野監督が描いた。