フランスで開催中のカンヌ映画祭で、最高賞パルムドールを争うコンペティション部門に出品された、是枝裕和監督(60)の映画「怪物」(6月2日公開)の公式上映が17日(日本時間18日)行われた。同監督は公式上映後、囲み取材に応じ、がんの闘病中に映画音楽を担当し、3月28日に71歳で亡くなった坂本龍一さんへの思いを改めて語った。

是枝監督は、ロケハンで長野県諏訪市を訪れ、諏訪湖を見た段階から坂本さんに映画音楽を依頼しようと考えたという。「映画の中で3回、繰り返される夜の湖の風景があったと思いますけども、ロケハンで諏訪に行って、あの景色を見た時に、ここに坂本龍一さんのピアノが入ると、自分では確信を持ちました」と振り返った。

坂本さんの病状も考慮し、製作陣の間では難しいのではないか? との意見もあったとした上で「そこで諦めてしまうと、きっと後悔するなと思ったので撮影が終わって編集して、そこに自分が使いたいと思う、好きな坂本さんの曲を仮当てしたもの(映像)とお手紙を、ご本人に送りました」と打診の経緯を説明。「(映画を)見ていただいて『引き受けます』と手紙が来まして。『映画全体を引き受ける体力は残っていないので、難しいんだけれども1、2曲、もう浮かんだものがあるので、それを形にしてみますから出来たら送ります。気に入ったら使ってください』という、お手紙で。しばらくして曲が届いて、また僕が手紙を書いて…今回は手紙のやりとりで、ずっと」と坂本さんとのやりとりの詳細を明かした。

坂本さんは全曲の制作ができず、書き下ろしはピアノ曲2曲にとどまった。そのため、71歳の誕生日を迎えた1月17日にリリースした、約6年ぶりのオリジナルアルバム「12(トゥエルブ)」の収録曲や過去の楽曲も使い、映画全体の音楽を構成した。

是枝監督は「こういう形で既製曲も使わせていただきます、というのも手紙で送らせていただいて…非常に限定的なやりとりだった」と、坂本さんとのやりとりを振り返った。ただ、その中でも「見た直後に『音楽室のシーンが、すごく好きだ』と。『非常に印象的に音が鳴るので、あのホルンとトロンボーンの音を邪魔しない音楽を作ろうと思います』ということは伝えていただいたので」と、闘病の最中にあった坂本さんが、映画を見て世界観を十二分に把握した上で、楽曲の制作を行っていたことを明かした。そして「結果的には既製曲も含めて、本当にちょっと、おこがましい言い方ですけど、映画の中から聞こえてくるようなコラボレーションになったんじゃないかなと思っていて。今日も最後に大好きな『Aqua』が流れて、何か自分で感動しちゃいました」と、公式上映で坂本さんの楽曲が流れた時の思いを打ち明けた。

取材陣から、坂本さんが映画をフルで見たのか? と質問が出ると、是枝監督は「使わせていただいた楽曲を当てたものは、送ってみていただいています」と答えた。坂本さんにとって生前、最後に映画音楽に携わった作品か? と問われると「そうだと思います…はい」と答え、頭を下げた。