「アイドル」の長い歴史の中で、特に2010年代からは、05年12月に誕生したAKB48を筆頭にさまざまなアイドルグループが誕生し、「アイドル戦国時代」といわれた。

光り輝くステージで、きらびやかな衣装をまとって歌い踊るだけでなく、SNSなどの興隆も相まって、グループのストーリー性、人間ドラマが、多くの人の心をとらえてきた。

一方で、数え切れないほどのアイドルが誕生したことで、近年は「セカンドキャリア」にも注目が集まっている。芸能界で夢を追い続ける者もいれば、新たな目標に向かって別の世界に進む者もいる。「Next Stage」に立つ、「元アイドル」のいまに迫っていく。【大友陽平】(文中敬称略)

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AKB48の9期生だった島田晴香(30)は、現在「アイドルのセカンドキャリア」をサポートしている。

「お久しぶりです! 今日はよろしくお願いします!」

そう元気に名刺交換のあいさつをする姿は、アイドル現役時代と変わらない。AKB48では、“縁の下の力持ち”的存在だった島田は今、自ら起業した「Dct」の社長として奮闘している。

「主にはアイドルのセカンドキャリア事業と、キャスティング事業をやってます。実家の旅館は空いてる時間でリモートでできる仕事をやったり、熱海に戻って接客したりとかもやってますが、基本的に軸となってるのは、アイドルのセカンドキャリア事業です」

島田は、09年9月、AKB48の9期生オーディションに合格。横山由依、島崎遥香、大場美奈、山内鈴蘭、永尾まりやらが集った9期生は、グループがブレークし、勢いに乗る中で加入。周囲からの期待も大きかった。島田も、12年のシングル「真夏のSounds good!」で選抜入り。シングルの選抜はその1度きりだったが、先輩と後輩のかけ橋として、リーダー的存在としてグループやチームを支えた。

「AKB48はあれだけ人数もいますし、当然その中で、選抜で選ばれる選ばれないがあったり、個人で売れるためにみんな入ってるけど、チームやグループとしてやらなければいけないので、まとめる人も必要になってきたり…。でもそういうのって、社会の縮図ですよね。私はどちらかというと、メンバーを支えたり、マネジャーっぽい感じだった(笑い)。それを周りから言われるようになってからは、自然と裏方のお仕事に目が行くようになりました」

17年11月13日に、AKB48を卒業し、同年末に芸能界も引退した。スポーツマネジメントの道を志し、語学の習得のため、単身ロンドンに渡った。さまざまな経験を積むうちに、スポーツ選手がセカンドキャリアのことを考えていることを知った。自らもアイドルというファーストキャリアを終えたばかりだった。

「私より早く卒業した先輩とか後輩たちって、今何してるんだろう? という疑問が生まれて…。芸能界に残ってる人もいれば、引退して結婚している人もいる。でも、一般社会に踏み出してる人がそこまでいないなと思ったんです。やっぱりAKB48が私は大好きでしたし、今も大好きだから、その名前を今後も語り続けていきたいという気持ちもあるので、後輩たちのために何かできないかなと考え始めました」

留学から帰国後、広告代理店に入社した。「最初はパソコンで資料も満足に開けないレベル」だったというが、当時勤めた会社社長に社会人としての手ほどきを受けながら、経験を積んでいった。

「パソコンスキルやビジネスマナーも必要なのは当たり前ですが、一番必要なのはマインドセットだなと。私はアイドルを8年やりましたが、トータルの人生で見たら“たかが8年”。これからの人生をどう豊かにしていくのか? と考えたら、結局自分自身じゃないですか? 後輩たちにもアイドルになってよかったって、人生ずっと生きててほしいなって思うんで。そういうアイドルの子たちを支えられる事業というか、お仕事があってもいいんじゃないかなと思いました」

20年5月、「Dct」を起業。自身の経験を基に、プログラムを作成し、一般企業に就職したいという元アイドルを支援している。「Dct」では現在までに、7人の元アイドルがプログラムを受け、それぞれ実際に一般企業に就職し、セカンドキャリアの道を歩み始めている。

「一般の道に進みたいという希望者に、基本的なパソコンスキルやビジネスマナーなどのプログラムを当てて、会社を紹介しています。即戦力にはならないかもしれないけど、アイドルとして培った経験というのは、コミュニケーション能力だったり、自分でSNSを発信したり、そういう危機管理能力も自然と身についているものです。アイドルを経験したからこそ、どうビジネスに変換して、使えるようにするかを考えています」

最近では、秋元康氏が総合プロデュースする新たなアイドルグループ創造プロジェクト「IDOL3.0 PROJECT(読み:アイドルサンテンゼロプロジェクト)」を推進する「株式会社オーバース」と、業務提携を視野に入れたパートナーシップ構築に向けての合意も発表したばかりだ。

「今後はアイドルオーディションの要項に入れてもらって、アイドルを目指す親御さんも安心して子どもの夢を応援できる環境だったり、ファーストキャリアを100%全力で頑張れる環境づくりに関わっていきたいと思います。セカンドキャリアももちろん大事ですけど、ファーストキャリアをどう歩んで、どう終わるか-。やっぱり終わり方っていうのは大事だと思うので、そういうところから入ってあげて、その子たちの人生のサポートをしてあげられればと思ってます」

そう話す姿は、すっかり社長だ。

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◆島田晴香(しまだ・はるか)1992年(平4)12月16日、静岡県生まれ。09年9月、AKB48の9期生オーディションに合格し加入。10年12月、正規メンバー昇格は発表され、11年6月結成のチーム4では一時キャプテン代行も。11年4月、テレビ東京ドラマ「マジすか学園2」出演。12年3月、シングル「真夏のSounds good!」で初選抜入り。同4月、日本テレビ「私立バカレア高校」出演。同8月、チームKに異動となり、15年3月から副キャプテン。17年1月、テレビ朝日「豆腐プロレス」出演。同11月にグループを卒業し、同年末に芸能界を引退。20年5月「Dct」を起業。血液型B。