先日、7人組アイドルグループ、仮面女子の猪狩ともか(31)月野もあ(29)を取材した。

仮面女子はアイドルグループが全盛時代だった11年、原型となるアリス十番としてスタートした。現在の名前になったのは13年から。ロックサウンド、ヘッドバンギング、そしてパワフルなダンスで、15年には地下アイドルとして初のオリコン1位を獲得した。同年にはさいたまスーパーアリーナで単独ライブを開催し1万5000人を動員するなど、そのブームは地下アイドルの下克上と称された。

今年2月に結成10周年を迎えた。メンバーは過去には28人も在籍していたこともあったが、現在は7人組として新生、仮面女子として活動している。

このほど、前千葉県知事で俳優の森田健作(73)がパーソナリティーを務めるFM NACK5「青春もぎたて朝一番!」(8月13日午前6時30分放送)にゲスト出演することになり、都内のスタジオで収録に臨んだ。

猪狩は車いすアイドルだ。18年4月11日、東京・文京区の湯島聖堂近くの歩道を歩いていたところ、倒れた看板の下敷きになり大けがを負った。湯島聖堂の敷地内に設置された立て看板(高さ約2・8メートル、幅約3・8メートル)が強風で飛ばされ、近くを歩いていた猪狩にぶつかった。病院に搬送されリハビリ治療を受けたが、下半身の運動機能を完全に失う障がいを負った。

ある日突然、本人に何の瑕疵(かし)がないにもかかわらず、歌って踊るアイドルが、車いす生活を余儀なくされた。

東京五輪でもパラリンピックは盛り上がり、街中はバリアフリー化が進み、健常者も障がい者も、誰もが、その人らしく生活を送れる環境作りの整備は進んでいる。多くの人は、障がい者が街中で困っていたら、手を差し伸べるはずだ。それでも、語弊を恐れずに書くと、その手助けは、あくまでも障がい者が低姿勢で助けを求めている、ことが条件のような気がしてならない。

それは上から目線ということなのだと思う。

車いすのコラムニストが、JRの無人駅を利用した際のトラブルが、SNS上で大きな議論を呼んだことも記憶に新しい。

同じ土俵に載せていいのかはわからないが、エンタメでいうと、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」の助成金の構図にも、似ていると思う。国から助成金をもらうならば、その映画は、国を批判したり、日本を否定するような作品には、金を出すなという一部論調と似ているような気がしてならない。「国益」なる、誰のための言葉なのかわからないワードが横行し、ようは、金が欲しいなら、現政権に作品で盾つくな、忖度(そんたく)しろよと、言われている気がしてならない。だから、障がい者も、助けてほしければ従順でいろと、言われているような気がするのだ。

下半身が動かなくなった猪狩も、下敷きとなった看板を管理していた団体とは和解が成立したものの、その団体に管理を任せていた国側は、その団体の管理監督をしっかり行っていたのか。その責任を問うために、国を提訴した。そして、この裁判が公になることで、猪狩に対する批判の声もSNSを含めて、大きくなったという。もちろん、応援する声の方が大きいものの、批判は少しでも、堪えるものなのだ。

助けられる側と助ける側。手を差し伸べられる人と手を差し出す人。双方がわだかまりなく、アシストできる世の中になればいいなと思う。

番組では、猪狩は、20年に出版した「100%の前向き思考--生きていたら何だってできる!一歩ずつ前に進むための55の言葉」で、反響が大きかった言葉を紹介した。

それは「できないこと、できなくなったことでではなく、できることにフォーカスする」だ。

事故による脊髄損傷で、排せつなどにも影響を受けることになったが、できなくなったことを嘆くのではなく、できることへの喜びを感じるということだという。このポジティブな言葉に、ファンはもちろん、多くの読者が感銘を受けたようだ。

猪狩は事故について「事故から1~2週間が過ぎてから、一生歩くことができないといわれました。私生活のことはもちろんですが、それよりも、仮面女子の活動をどうしようかと思いました。車いすのアイドルが世の中に必要とされているのか、受け入れられるのかが不安でした」と振り返る。それでも、メンバーやファンから背中を押され、ステージに立つ。

2人をゲストに迎えた森田は「人生はいろいろある。だだ、今日の猪狩さんは本当にいい顔をしている。いい顔というのはツキを生むし、マイナスは気持ち次第でプラスにもなる」と話していた。

車いすアイドルだからでなく、ポジティブ指向の猪狩を応援したいと思う。【竹村章】