自分の道を1歩1歩進む。俳優、福地展成(27)。父は“Vシネマの帝王”とも呼ばれる哀川翔(62)、1歳下の妹は女優、福地桃子(25)で、自身も役者としての道を歩んでいる。現在は8月13日から放送、配信中のWOWOWの「連続ドラマW 事件」や、同じくWOWOWで配信中のオリジナルドラマ「ドロップ」に出演中。このほど日刊スポーツの取材に応じ、各作品の見どころや、家族への思いを語った。
「事件」では、主演の椎名桔平(59)演じる元エリート裁判官の弁護士と裁判で相対する金物屋の店員役を演じる。同名裁判小説原作のサスペンス作だけに「詳しくは言わない方が楽しんでもらえるかも」と語り「脚本がめちゃくちゃ面白くて、最初から最後まで没入して読ませていただきました。事件の加害者、被害者だけでなく、裁判員や傍聴している方、それぞれの違った視点を細かく描いているところが見どころかなと思います」と話した。
初共演の椎名については「すごく渋くてかっこいい方だと思っていましたが、それだけではない魅力を感じました」と明かした。緊張感漂うシリアスなシーンが多い中でも、カットごとに演技を微妙に変えるなどして周囲を楽しませていたといい「カットがかかったら周りから笑いが起きるというか。緊張感がある中でもそれを緩和させる力がある。渋さの中に、かわいらしさみたいなものも持っている方でした」。
撮影後は近づいてきた椎名とねぎらいの握手も交わしたといい「ありがとうございました、と。丁寧な方だなと思いましたし、そうした人格の素晴らしさは男ながら魅力に感じました」と話した。
「ドロップ」では不良に憧れる中学生の主人公の友人役を演じる。こちらも2009年には映画化もされて大ヒットした品川ヒロシ(51)の同名小説が原作。オリジナルストーリーも追加した14年ぶりの完全リブート作で、福地には主人公の友人役の中で唯一、不良ではない役柄が与えられた。
「映画版ではなかったキャラクターです。オーディションは不良役で受けていたんですけど、品川さんから『どうしても不良には見えない』というお言葉を頂いて(笑い)。映画版も見ていたので出られることがうれしかったですし、視聴者の方の共感を得やすい不良ではない役だったので、そうした部分は意識して演じました」。
作品には主人公役の細田佳央太(21)や板垣瑞生(22)、JO1の金城碧海(23)、田鍋梨々花(19)、中村里帆(24)ら男女の若手有望株が多数出演している。福地は「すごく刺激をいただきました」と振り返り「キャストの方々と後日、食事にも行きましたし、荒削りな部分などにパワーやエネルギーを感じました。撮影中は(殴る蹴るの)アクションいいな、自分もやりたいなと思って見ていました(笑い)。ドラマは迫力はもちろん、映画版では描ききれなかった部分も入っているので、そちらのファンの方にもぜひ楽しんでいただけたらと思っています」。
8月10日に27歳の誕生日を迎えた。役者の道へ進んで丸4年が経過。もともと俳優業は「親の苦労なども見てきていたので、一番やらないだろうなと思っていた」仕事だったという。大学でデザイン系の分野を学び、テレビ番組制作やデザイン事務所などでのアルバイトを経験する中で志すようになり、知人を介して今の事務所を紹介された。
父である哀川の個人事務所もあるが、「自分で道をどうつくれるのか挑戦してみたいという気持ちがありました」。両親には相談せず、所属が決まりそうな段階で初めて役者業を志すことを伝えた。「(哀川からは)驚きもなく、『いいんじゃない?』と言われました。基本的に否定されたことはないので、大体いつも『いいんじゃない?』ですが(笑い)。1度始めたら辞めない覚悟を持って入った世界ですし、これからも出会いに感謝しながら仕事を続けていけたらうれしいなと思っています」。
5人いるきょうだいも仲が良いといい、同じ役者となった妹の桃子とは相談しあうことも多いという。「妹の方が先に役者になっていて、その時から稽古相手とか一緒に役作りをしたりしていました。今は自分も手伝ってもらっています。年子の妹で過ごしてきた時間も長いので、感覚的には話さなくても分かる部分も多いのかなと思っています」。
桃子は映画の主演作をはじめ、19年NHK連続テレビ小説「なつぞら」出演、昨年はNHK大河ドラマ初出演となった「鎌倉殿の13人」での好演も話題となった。「とても刺激になっていますし、仕事でない普段の生活でも人として常々刺激を受けています」と語り、「自分が出た作品を『見たよ』と連絡がきたり、何か聞かれたらこっちも話したり。現状を相談することもありますが、妹からは『焦らずやればいいんじゃない』と言われていますね。自分も(大河など)お呼びがかかればいつでも、とは思っています」と力を込めた。
リフレッシュになっているのはスナックめぐりと料理だという。「昔から小さいスナックが好きでよく行っています。そこで(カラオケで)歌っている時が一番生きている感じがするんですよね。年齢関係なく、初めて会うお客さんと一体感が生まれたり、そういうスナックでのコミュニケーションとか、たとえ小さいステージだとしても、役者として映像に出る時とあまり感覚は変わらないと思っているので。お店にいるみんなが楽しんでいる、そういう瞬間や感覚を普段の生活でも出せたらなと思っています」。
こちらももともと好きだったという料理熱は、コロナ禍でさらに加速した。スーパーなどに気楽に行けなくなった時期に始めた、開けた市場での買い出しを今でも続けているといい「1週間分くらい買うので、野菜とかは大きな箱でまとめ買いするんですよね。なので、自分が買おうと思っていなかったものも入っているんですよ。この前も小松菜が入っていたので、ナムルをつくりました。食べることが一番好きですし、料理をつくって人に喜んでもらえるのも好きですね」。
ほどよい息抜きも挟みながら、さらなる飛躍の時を探っている。現状は「旅の途中みたいな感じですね」と表現。「新しい出会いが楽しいですし、(役者として)吸収できることも多いです。まだまだやりたいという気持ちがありますし、舞台や映像など仕事にもあまり縛りを設けず、求められているところに全力で取り組んでいきたいです」。ゴールはまだまだ先にある。これからも貪欲に、信じた道を進んでいく。【松尾幸之介】