アリスのメンバーでシンガー・ソングライターの谷村新司(本名同じ)さんが10月8日、亡くなった。74歳だった。所属事務所が発表した。葬儀は近親者のみで15日に執り行ったという。

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「あの時の坊ちゃん、元気かい?」

昨年5月、50周年のインタビューで顔を合わせると、開口一番、あの柔和な表情で聞いてくれた。

その取材からさかのぼること2年前、コロナ禍に突入し、自宅でオンライン取材をした際、記者の息子が部屋のドアを開けてパソコンに映る谷村さんを見詰めていた。こちらの不手際にも、谷村さんは手を振って「お歌とか歌ってる?」と気さくに話しかけてくれた。その当時のことを覚えていてくれたのだ。

取材では、そんな谷村さんの少年時代の話も聞いた。母は長唄の三味線、姉は地唄舞をやっている家庭に育った。「長唄の文句を耳で覚えていて、大人になって、日本語の奥深さをすごく感じられるようになった」。名曲「昴」の歌詞も「何で『我』なんですか? とよく聞かれましたが、自分の中では背筋が伸びる感じがしたり、覚悟みたいなものがにおったりする…。そういう感覚が、自然と自分の中に芽生えていたんです」と教えてくれた。

息子はあれ以来、メディアで谷村さんを見かけると反応するようになった。いつか谷村さんの曲に触れ、意味を深く考える時が来るだろう。生の歌声で聞けないのは残念だが、これからも楽曲は生き続ける。ありがとうございました。【大友陽平】